西国三十三所の観音巡礼の作法について説明します。しかし、これも作法を守らないと参拝する資格がない、などといったお話ではなく、あくまでも観音さまを敬う心が大事です。観音さま、さらには他の巡礼者に対して気を配ることができれば、それはもう作法、マナーを身につけているも同然です。
※なお、コロナ禍における巡礼については別途留意すべきことがあります。くわしくは、下記の新着情報をご覧ください。
観音巡礼のやり方
では、具体的に観音巡礼の作法を見ていきましょう。これまた例の『西国三十三所勤行次第』を中心に、各寺院のホームページも参考にしながら説明していきたいと思います。
納経前まで
まず、お寺の前に到着してから、写経を奉納したり、お経を読み上げたりする前までの説明をいたしましょう!
山門
お寺によっては、山門前に受付があって参拝料・入山料を奉納する場合があります。スマートになるべく小銭で支払いましょう。
山門の前まで来たら、トップの画像のように立ち止まり、合掌して一礼します。
手水舎
※写真は葛井寺の手水舎
清水寺のホームページに、手水の使い方に関する説明があります。
参拝前に手を清めます。手は掌(たなごころ)とも呼び、手を清めることは、心を清める意味があります。その手順に厳密な決まりはありません。霊水で手を洗い、心を静かに整えて頂ければ幸いです。
つまり、あまり作法にこだわりすぎる必要はない、ということですね。作法にとらわれるあまりに周りの巡礼者に対して配慮を欠いてしまったり、肝心の観音さまを敬う心がおろそかになったりしてはまったく意味がありません。
ただし、清水寺のホームページでは、一般的な手水の作法を説明してくださっています。
以下の手順は一般的な手水の作法です。ご参考にしてください。
① 右手で柄杓を持ち水を汲み、左手を清めます
②柄杓を左手に持ち替えて、右手を清めます
③再び柄杓を右手に持ち、左手の掌に水をためて口をすすぎます
※柄杓には口を付けてはいけません④再び左手を清めます
⑤柄杓を立てて余った水を下に流して柄を清め、柄杓を伏せて元の位置に置きます
ちなみに清水寺のホームページはキレイな鉛筆画風の絵も入っていますので、とても分かりやすいです。
本堂前
※写真は紀三井寺の本堂前
たいてい本堂前には杖立てがありますので、金剛杖はあらかじめ立てておきましょう。
ローソク立て、常香炉が本堂内にあるか本堂前にあるかは、お寺によって異なります。しかし、本堂が国宝や重要文化財になっていることもありますので、本堂前にある場合が多いように思います。
西国三十三所の札所では、ローソク立てや常香炉の近くにローソク・お線香が売られていることが多いです。30円や50円、100円と値段はまちまちですが、購入する場合は近くにお金を入れる箱のようなものがありますので、そこにお金を入れましょう。持参したものを使っても問題ありません。なお、ローソクやお線香に火を点けるために大きなローソクや火種のようなものがありますので、それを使うといいでしょう。
まず、ローソク立てにローソクを立てます。上段、奥から立てるようにします。これは、次の人がローソクを立てるときに立てやすいようにするためです。ご自身の服の袖に引火しないように、気を付けてくださいね。
つづいて、お線香を立てます。札所によっては、寝かせるようになっているところもあります。これもできるかぎり真ん中の方に立てます。理由はローソクと同じです。こういった気配りが、どのようなシーンでもさらりとできるようになりたいですね。
納経
観音さまが祀られている本堂に入ってからの作法について説明します。
なお、写経を奉納したり、お経を読み上げたりすることを納経と言います。西国三十三所の札所では、ご朱印を書いてもらう際に納経所というところに行かなければいけません。本堂内にあったり、本堂のそばにあったり、お寺によって異なります。
本堂に入る
本堂に入る際、帽子をかぶって来たという方は、帽子を脱いでください。これもマナーの一つです。菅笠すげがさの人は菅笠を脱ぐ必要がありませんが、雨が降っていて雨除けカバーが濡れてしまっている場合、本堂内を濡らしてしまうことになりますので、本堂前の邪魔にならないところにおいておきましょう。私はお杖の上に載せるようにしています。
なお、本堂内陣に入るにあたり拝観料や参拝料を奉納しなければいけないお寺もあります。
※写真は南法華寺(壺阪寺)八角円堂内 ご本尊十一面千手観世音菩薩像
納経の前後の作法
やはり観音さまを前にするわけですから、合掌・一礼をします。醍醐寺のホームページから「霊場参拝の仕方」を引用します。
輪袈裟をつけ、念珠をお持ちの方は念珠を軽く擦り左腕に一層にして掛け、合掌・一礼してから読経します。
読経が終わりましたら念珠を擦り祈願します。一礼してから写経や納め札を納めます。
納札を納めるタイミングですが、『西国三十三所勤行次第』では納経の前に納めることになっています。この順番もやはり、そんなにこだわらなくても大丈夫なようです。私は、四国八十八ヶ所からの習慣で、読経前に納札をお納めしています。
また、お賽銭もお祈りをする前に奉納しましょう。
読経
写経をしてきた方は、写経入れにお経を入れましょう。
読経する方は、般若心経や観音経などを読み上げましょう。『西国三十三所勤行次第』では、次のように書かれています。
観音様のお経は、「般若心経」「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」(観音経、普門品とも呼ばれます)「延命十句観音経」等が有ります。観音経は長文なので全文を唱えない場合は、「世尊偈」とよばれる偈文(詩の部分『世尊妙相具』から始まる部分)を読誦します。
そしてさらにつづけて、ご本尊の観音さまのご真言、ご詠歌と唱えることになっています。
一方、今熊野観音寺のホームページによると、これもとくに決まったやり方はないようです。
般若心経や観音経を知っている方はおあげになっても良いですし、「南無観世音菩薩」とお唱えしたり、ご本尊のご真言をお唱えになっても良いでしょう。
つまるところ、定型のやり方、必ずこうしなければいけない、というやり方が決まっているわけではないようです。おそらく、教育係となった先達の方のやり方を真似していく、ということになるのでしょう。
なお、読経の際には、後続の方に配慮してご本尊の正面は避け、人が通れる道を確保したうえで読経しましょう。
南坊流読経について
まったく我流でありますが、南坊流の読経のやり方について言及しておきます。なお、『西国三十三所勤行次第』の順番通りに番号をつけています。南坊流では、四の「妙法蓮華経觀世音菩薩普門品第廿五偈」を飛ばし、五を三遍、六も三遍唱えます。そして七、八で終わります。
一 開経偈かいきょうげ
二 懺悔文さんげもん
三 般若心経
四 妙法蓮華経觀世音菩薩普門品第廿五偈
五 延命十句観音経
六 ご本尊ご真言
七 ご詠歌
八 回向文えこうもん
五の「延命十句観音経」ですが、二十三番札所の勝尾寺に参拝した際、大音量スピーカーでこれがひたすら流れている時間がありました。短いお経ですので、何回も繰り返してお唱えするもののようです。
お祈り
納経が終わったら、最後に観音さまにお祈りをしましょう。お祈りはどんなことでもかまいません。世界平和でもいいですし、ご自身の健康のことでもいいですし。観音さまは、ありとあらゆる方法で私たちを救ってくださいます。
納経後
納経が終わったら、速やかに納経所へ移動しましょう。
納経所にて
納経所で並び、自分の番が回ってきたらいよいよご宝印を書いていただきます。別項でも言及したとおり、ご宝印は納経帳(ご朱印帳)、笈摺おいずる、掛け軸、西国観音曼荼羅納経札にいただくことができます。
ご宝印を書いていただきやすいように、該当箇所をあらかじめ開いておくなど、分かりやすく用意しておきましょう。
納経帳(ご朱印帳) 300円
笈摺 200円
掛け軸 500円
曼荼羅納経札 500円
また、別途ご本尊の御影みえ・御姿おすがたを購入することもできます。こちらはカラーで200円、白黒100円です。
なるべく小銭を用意しておきましょう。私は一万円札しかなく、ご迷惑をおかけしたことがあります(言い訳をさせていただきますと、駐車場で小銭をすべて使い果たしてしまったのでした……)。
なお、掛け軸に書いていただいた場合、しばらく乾かす必要があります。多くの札所でドライヤーをご用意してくださってますので、お借りしたらよいと思います。
また、一人で何冊もの納経帳を持って来ているなど、たくさんご宝印をいただく場合、後ろに並んでいる方が多いときには、一冊ずつ並びなおすのが適切なマナーです。せっかく観音さまのところに来ているのですから、周りの人を気遣う余裕が欲しいですね。
山門
帰る際も来たときと同じく、山門を出てから振り返って合掌・一礼しましょう。
これで、次の札所を目指しましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。「西国三十三所 巡礼には何が必要なの?」でもお話させていただきましたが、結局一番大事なのは観音さまを敬う心であって、形はさほど重要ではない、ということです。ただし、重要ではないとはいえ周囲の方々に迷惑をかけたり、不快な思いをさせてしまったりしてはせっかくの観音巡礼が台無しになってしまいます。ご自身の立ち居振る舞いに心を配っていただき、皆さんでよりよい観音巡礼を作り上げていきましょう。
それでは皆さん! Let's start the Pilgrimage West!
最終更新:2021.5.27