西国お遍路“行雲流水”

西国三十三所や四国八十八ヶ所を雲のごとく水のごとく巡礼した記録

お遍路映画鑑賞④ 映画「ボクは坊さん。」を観ました!

「ボクは坊さん。」タイトルシーン ※スマホで撮影

正月休みを利用して、おそらく最後となるであろうお遍路関係の映画を見ました! 今回の映画は今までと違い、いわゆる「中の人」の方に注目して作られた映画です。それもそのはず、四国八十八ヶ所57番札所栄福寺のご住職の著作を原作としているのです。それだけに、内容もかなり深いものでした。以下、レポートとなります。

ROBOT「ボクは坊さん。」鑑賞レポート

お遍路を「する側」のお話ではなく、「される側」のお話ですので、我々「する側」からしたら興味は尽きません。この映画を見ると、納経所の方の背景まで自然と想像されるようになってしまい、塩対応だ何だなどと批評できなくなるかもしれないですね。

映画について

映画情報

製作国:日本

製作 :ROBOT

配給 :ファントム・フィルム

製作年:2015年

公開日:2015年10月24日

データ:99分

 

スタッフ

監督 :真壁幸紀

エグゼクティブプロデューサー:安藤親広・佐々木淳

プロデューサー:梶原富治

原作 :白川密成『ボクは坊さん。』(ミシマ社2010)

脚本 :平田研也

撮影 :柴崎幸三

美術 :龍田哲児

音楽 :平井真美子

照明 :上田なりゆき

録音 :赤澤靖大

編集 :森下博昭

主題歌:吉田山田「Today,Tonight」(ポニーキャニオン)

企画協力:塚本連平

 

キャスト

白方進(光円):伊藤淳史

越智京子 :山本美月

桧垣真治 :溝端淳平

峰岸孝典 :渡辺大知

品部武志 :遠藤雄弥

正岡龍仁 :駒木根隆介

白方一郎 :有薗芳記

白方宣子 :松金よね子

白方瑞圓 :品川徹

栗本広太 :濱田岳

白方真智子:松田美由紀

新居田明 :イッセー尾形

 

その他キャスト

斎藤歩 青山美郷 伊東由美子 戸田昌宏

あらすじ

四国八十八ヶ所霊場57番目の札所、栄福寺。住職瑞圓の孫の進は、高野山大学で勉強し僧侶の資格を持つ「阿闍梨」となったが、まだ正式にお寺を継ぐ覚悟は持っていなかった。そんな中、祖父の瑞圓がすい臓がんでこの世を去ってしまう。ついに決意を固めた進は、名を光円と改め、正式に住職となったのだった。しかし、檀家の長老とは折り合いが悪く、また、幼馴染みとの恋も、実る様子もなかった……。

映画を見て

映画を見て、思ったところを書いていきます。

純粋な感想(ネタバレもあるかも)

さすがに現役の住職の方が原作を書いておられるだけあって、いろいろと考えさせられる映画でした。とくに映画のテーマになっている、「生」とは何か、「死」とは何かを深く考えることになったと思います。

この生死にからんだ名言は劇中の随所に見られます。身近な人を亡くしてから日があまり経っていない方は、おそらく涙を禁じ得ないことでしょう。その辺のところは後で詳しく書くことにします。

ここでは、純粋な映画としての評価をしていきたいと思います。なお、私は原作を読んでいませんので、どこからどこまでが脚色された部分かはまったく知らずに書いております。

ちなみにこの映画は、第49回ヒューストン国際映画祭のプラチナアワード(長編映画部門最高賞)とシカゴ・アジアン・ポップアップ・シネマのオーディエンス・チョイス・アワードを受賞しています。映画館で見ていたら、私も泣いていたかもしれません。それくらい、感動的なストーリーでした。

一方で、ところどころ可笑しみのある部分もあります。伊藤淳史さんや濱田岳さんといったキャスティングもよかったのではないでしょうか。

とくに、伊藤淳史さんのモテないキャラがいいですね。この伊藤さんが演じる光円の幼馴染みを演じているのが、溝端淳平さん、山本美月さんです。光円は山本さんが演じる京子に淡い恋心を抱いているのですが、京子の眼中にはそれがまったく入っていません。幼馴染みの三角関係ということであだち充先生の『タッチ』(小学館)のようになるのかと思いきや、溝端さんが演じる真治にはそういう感情はなさそうでした。どうやら、本当に幼馴染みとしての感情しかないようです。おそらく、モテるからでしょう(※劇中にはそのような描写はとくにはない)。真治は、友情を大切にするとても熱い男でした。

この山本さんがやはり美しいですね。美月の名のとおり、美しい月のようで、どこか翳のある、薄幸そうなキャラクターをうまく演じておられました。山本さんが演じる京子は、長距離ドライバーの品部という男と結婚します。その結婚式を栄福寺であげたいと言うのですが、住職になったばかりの光円にとっては、残酷にも程があるように思います。

京子はその後、めでたく赤ちゃんも授かるのですが、出産に際して……。ここはネタバレになるので、言葉を濁しておきましょう。

あらすじでも書いておきましたが、檀家の長老がなかなかのクセツヨ(※千鳥のネタのようにクセが強い)キャラでして、これをクセツヨ俳優界の第一人者、イッセー尾形さんが演じておられます。これがすばらしくいいんです!

初めは新住職の光円を認めようとせず、あからさまに敵対的な態度をとります。それだけ前住職の信望が篤かったということでしょう。しかし、若いながらもできることを一つずつ、真摯に取り組んでいく光円の様子を見て、徐々にそれを受け入れていくのでした。

最後は、京子のことを思ってやり場のない憤りを真治からぶつけられた光円を、立ち直らせる役割を果たします。これをアシストしたのが、そこまであまり活躍を見せていなかった光円の母親でした。松田優作さんの奥さん、松田美由紀さんが演じておられます。これも感動的なシーンでした。

 

さて、上述のとおりこの映画のすべてを貫いているのが、「生」と「死」です。

映画の冒頭で、光円は敬愛する祖父瑞圓の死に直面します。その時、瑞圓がこのような言葉を残しました。

瑞圓「落ちるを生と名づけ、帰るを死と称す」

普通、「生」はありがたいもの、「死」は怖ろしいものとしてとらえられます。しかし、そうした「生」と「死」の境界を曖昧にした、どこか古代中国の荘子の教えにも通じるような、仏教的な、相対的な言葉です。

その後、修行仲間の広太が会社をやめて引きこもってしまっていることを知った光円と仲間の孝典は、酔った勢いで広太を高野山に連れていってしまいました。なぜか大学時代の行きつけの居酒屋で目が覚め、そこで居酒屋の女将さんの娘ほのかちゃんに「死ね」と言われてしまいます。それもそのはず、酔った二人は相当なご乱行だったようです。

奥之院への道すがら、三人はこのような会話をしていました。

光円「起きたら、死ねって」

孝典「ああ。けど、生きてる証拠だ。生きてるから、死ねって言われるんだ」

普通は、全否定されなければならない「死ね」という言葉を、自分たちに非があるとはいえ肯定的な言葉として捉えているところが興味深いです。普通、人から「死ね」と言われたらこのような肯定的な解釈はできないでしょうが、さすがに高野山大学で仏教について勉強しただけあって、深い解釈ができています。これも、「生」と「死」の境界を曖昧なものと捉えることができているからこそ、言える言葉のように思います。

その後、さらに会話はつづきます。

孝典「母も、父も」

孝典・光円「そのほか親族がしてくれるよりも」

孝典・光円・広太「さらに優れたことを、正しく向けられた心がしてくれる」

この言葉は、劇中で何度か述べられたものでした。お釈迦さまの言葉ですね。3人が、修行時代にも共に唱えていた言葉です。いつしか、広太も元気になっていました。

後半は、京子の不幸によって、重苦しい場面も多くなります。ただ、京子から新しい命が生まれました。赤ちゃんは、和也(※劇中では「かずや」とのみ称されており、「也」という漢字かどうかは不明。便宜上「和也」とする)と名づけられます。しかし、それによってさらなる問題も発生します。そして、上述したとおり、真治にやり場のない憤りをぶつけられた光円は、精神的にショックを受けてしまったのでした。

それを救ったのが長老でした。その長老の死に直面し光円は立ち直り、葬儀では穏やかな表情で優しく人々に語りかけます。参列していた真治も、その言葉を聞いて柔らかな表情を取り戻しました。長老は、みんなを救ってくれたのでした。その時の光円の言葉をあげておきます。

僕は、生まれる前の感じと、死んだあとの感じって、似てるんじゃないかなって思うんです。そしてそれが、一番普通な状態なんじゃないかなって……。だから、生きているっていう今のこの状態は、とても短い、すごく特殊な時間なんじゃないかなって、そんな気がします。だって、人は何で生まれた時に泣くんでしょうか。もしかしたら、穏やかな眠りから、覚まされてしまうからかもしれない。そしてまた死をもって、穏やかな眠りへと帰っていく。だとしたら、生きている時間ってお祭りみたいなものかもしれない。

そして、最後のシーンでは朝のお寺の様子が描かれます。冒頭では、同じルーティンを祖父の瑞圓が行っていました。最後は、それを光円が淡々とやっていきます。

「生きている時間はお祭りみたいなもの」と言っていたにも関わらず、ここでは淡々と日常が繰り返されていくのだ、ということが述べられています。

「生」は永遠ではないが、「死」は終わりではない。

「生」は受け継がれていきます。瑞圓から光円へ、京子から和也へと。その「生」とは、時には祭りのようなものでもある一方で、時には苦しいものです。「死ね」と言われることもあり、植物人間になってしまうこともあります。しかし、それも「生きている」からこそ、なのです。

そしてそれは、長老が光円を認めてくれたシーンでのセリフとつながってきます。農業をやっていると、自分がちっぽけな存在に見えてくるんだ、ということを話してくれた長老に対し、光円は「空」の話をします。

「空」ですね。自分は自分一人で自分なのではない。周りの世界があってここにある。そう思えば、自分の身にふりかかる大変なことも、ありがたいことのように思える。

仏教用語で言えば、縁起の法について説明しているように思われるこの言葉を、光円は「空」という言葉で表現しました。自分は一人だけで存在しているのではない、あらゆるものと関わり合って、支え合って生きている。それこそが、「生きている」ということなのだと言っているのでしょう。

つまり、どんなに大変なことも、また一方でうれしいことや楽しいことも、「生きている」からこそ、体験できることなのです。この映画を見て、私も自分の「生」を淡々と、しかし「祭り」のように楽しみながら生きていきたいと思いました。

巡礼者目線の感想(ネタバレあり)

「釣りバカ日誌14 お遍路大パニック!」(2003)からさらに12年経っており、もう完全にリアルタイムの話になってきました。2015年には、まだ私はお遍路を始めていませんが、栄福寺の様子は私の見た2020年、2021年の姿と同じです。

ただ、葬儀のシーンは驚きです。「むすめ巡礼 流れの花」(1954)ともそれほど変わらないような田園風景を葬儀行列が通っていくのです。この葬儀行列の様子は、「旅の重さ」(1972)に登場したものと似通っていて、四国には古い風習が残っていることをうかがわせてくれます。

登場する札所は1ヶ所だけで、57番札所の栄福寺だけです。撮影協力として、他には医王寺光林寺、高野山金剛峯寺が登場します。医王寺がどのシーンで登場したのか、ちょっと分かりませんでした。

しかし、光林寺は劇中で「りんみょうじ(林明寺?)」として登場します。ここのご住職、正岡龍仁を演じておられるのが駒木根隆介さんで、何となくNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」で主人公の親友の父親を演じている松尾諭さんと同じようなポジションの俳優さんのように思います。ちょっと太っていて、愛嬌があり、安心感があるというキャラクターですね。

あまり知り合いもなく、支援者も少ないことを悩んでいた光円は、龍仁から草野球チームに誘われます。そのチーム名がまた面白いです。名づけて、「南無Stars」! うーん、ファミスタシリーズの「ナムコスターズ」にかけているんでしょうか……。面白すぎませんかね。

また、劇中には、本職のお坊さんが助っ人として登場されます。大規模な葬儀のシーンでは、人手が必要だったのでしょう。クレジットされているお寺の名前とお坊さんのお名前を挙げておきます。なお、映画と同様に敬称は省略させていただきます。

 

多聞寺     白川密峰

光林寺     渡邊眞憲

浄土寺     高松善雄

宝積寺     菅真雅

仙遊寺     小山田憲正

医王寺     乃万真現

龍岡寺     渡部悠弘

神宮寺     佐伯量弘

岩屋寺     大西隆善

法南寺     西本宥健

高野山今治別院 谷本哲岳

宝生寺     上月英彰

西宝寺     島田信道

海南寺     神野恵聖

附嘱寺     山澤琇礎

真光寺     佐々木善祐

仏木寺     松本明慧

道音寺     平野仁紹

竹林寺     世良栄仁

満願寺     星野敬豪

南光坊     板脇俊匡

宝蔵寺     里野和敬

明積寺     山澤径法

歓喜寺     久松宝詮

高龍寺     鴨井悠真

光蔵寺     叶宜朗

 

5番目に挙がっている仙遊寺は、四国八十八ヶ所58番札所です。

9番目に挙がっている岩屋寺は、45番札所の岩屋寺ですね。

17番目に挙がっている仏木寺は、42番札所の仏木寺です。 

19番目に挙がっている竹林寺は、高知市にある31番札所ですね。

21番目に挙がっている南光坊は、55番札所です。

こうやって見ると、今治市内のお寺はもちろん、近隣のお寺や、四国八十八ヶ所の札所も結構映画制作に協力しておられたことが分かります。

最後に

この映画を見て、私も自分の「生」と「死」について考え直すことができました。

ところで、話がかなり変わってしまいますが、昨年末のNHK「第73回紅白歌合戦」はみなさんご覧になりましたか? 「生」を「祭り」のように楽しんでいるおじさんたちが大活躍していました。そりゃ白組が勝つやろ~と思いました。

芸能活動50周年の郷ひろみさん(67)に始まり、鈴木雅之さん(66)、THE LAST ROCKSTARSのYOSHIKIさん(57)、HYDEさん(53)、SUGIZOさん(53)、MIYAVIさん(41)(※このメンツだと若過ぎる)加山雄三さん(85)、安全地帯の玉置浩二さん(64)、大トリを務めた福山雅治さん(53)。そして圧巻は、桑田佳祐さん(66)、佐野元春さん(66)、世良公則さん (67)、Charさん(67)、野口五郎さん(66)、さらに助っ人として出演した、「いつも素敵なトラックに乗っている」(※桑田さん談)ハウンド・ドッグの大友康平さん(67)の同級生セッション。

みなさんに共通しているのが、自分が楽しみながら周囲を楽しませる、つまり「生」を「祭り」のように楽しんでいたということです。2023年、私も彼らレジェンドアーティストに負けずに頑張ります!

というわけで、2023年も「西国お遍路“行雲流水”」をよろしくお願いします!

オススメ度:☆☆☆☆☆