西国三十三所の第二十六番札所は、法華山ほっけさん一乗寺いちじょうじです。播州清水寺に負けず劣らぬ人跡稀な山中にあり、霊山と呼ぶにふさわしい雰囲気を持つお寺です。
一乗寺の巡礼情報
一乗寺のある法華山は、兵庫県立歴史博物館のホームページ*1によると、山頂の標高は243メートルほどということでそれほど高さはありません。しかし谷が複雑に入り組んでいて八葉の蓮華の花に見えることから、法華山という山号となったそうです。
一乗寺の縁起
一乗寺はホームページをお持ちではありませんが、詳しい縁起はパンフレットで見ることができます。
それによりますと、一乗寺の創建は飛鳥時代の白雉元(650)年のこととされ、開山は法道仙人となっています。
法道仙人は観世音菩薩像と鉄鉢と仏舎利のみを持っただけでこの山に住まい、飛鉢の術で鉢を飛ばしてあちこちから供養をいただいていたそうです。ある時、播磨灘を行く船に鉢を飛ばしましたが、太宰府の船師であった藤井麻呂が拒んだため、船中の米俵はすべて飛び去ってしまい、この山に飛来したそうです。藤井麻呂が慌てて謝罪に来ると、仙人は鉢一杯分のみ米をいただいて、米俵をすべて船に返した、とのことです。
この話を聞いた孝徳天皇が法道仙人の法力に感じ入り、大化5(649)年にご病気となった際に仙人に病気平癒の祈願をお願いしたところ、たちまち平癒したそうです。こうして孝徳天皇は翌年金堂を建立し、勅願寺として道慈律師に供養させたということです。
ただ、道慈律師は50年以上後に活躍した人物なので、牽強付会が起こっているか、後代の話が混ざっているのか、いずれかだと思われます。
一乗寺の見所
一乗寺の見所をご紹介します。
石造笠塔婆
※石造笠塔婆
鎌倉時代末期の正和5(1316)年の刻銘がある石造笠の卒塔婆です。兵庫県の指定文化財となっています。
常行堂
※常行堂
オリジナルは聖武天皇の勅願で建立されました。戦国時代の天文22(1553)年に再建されましたが、1877年に再々建されたそうです。不断念仏や止観道場として使用されました。
法輪堂(経蔵)
※法輪堂(経蔵)
江戸時代中期の宝暦12(1762)年に建立されたそうで、黄檗版一切経が納められています。
三重塔
※三重塔
平安時代末期の承安元(1171)年、長吏法印隆西、一和上仁西の勧進により造立され、承安4(1174)年額田部武末の屋根瓦寄進によって完成したそうです。日本でも十指に入る古塔とされ、現存している三重塔としては確かに興福寺のものよりも古いと考えられています。最上層の屋根が波形となっているのも特色で、蟇股かえるまたなどには中尊寺金色堂と同様に平安時代末期の建築様式がうかがえる、とのことです。国宝に指定されています。ご本尊は五智如来です。
鐘楼
※鐘楼
江戸時代前期の寛永5(1628)年に姫路藩主の本多忠政が再建したそうです。梵鐘には「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」と刻まれており、同時期に鋳造されたと考えられます。袴腰の鐘楼で、兵庫県の指定文化財となっています。
本堂
※本堂
オリジナルは飛鳥時代の白雉元(650)年に孝徳天皇によって建立されたと考えられていますが、現在の建物は江戸時代前期の寛永5(1628)年に姫路藩主本多忠政によって建立されました。1999年から約10年に及ぶ半解体大修理工事が行われました。国の重要文化財に指定されています。ご本尊の銅像聖観世音菩薩像は秘仏で、お前立ち共々白鳳時代の制作と考えられており、国の重要文化財に指定されています。
護法堂
※護法堂
鎌倉時代の建立と考えられており、国指定の重要文化財となっています。仏法守護の毘沙門天をお祀りしています。
妙見堂
※妙見堂
室町時代の建立と考えられており、国指定の重要文化財となっています。国土守護、災害滅除、福寿増長の妙見菩薩をお祀りしています。
弁天堂
※弁天堂
室町時代の建立と考えられており、国指定の重要文化財となっています。福徳、除災、得勝、音楽などを司る弁財天をお祀りしています。
行者堂
※行者堂
江戸時代前期の寛文年間(1661~1673)に建立されたそうです。役行者と前鬼・後鬼をお祀りしています。当山の護摩供の道場とされています。
開山堂(奥の院)
※開山堂
江戸時代前期の寛文7(1667)年の建立で、開山の法道仙人をお祀りしています。本堂から5分ほど山に入った奥の院にあります。
賽さいの河原
※賽の河原
奥の院の開山堂のさらに奥にあるのが賽の河原です。ちょろちょろと湧き水が出ており、これを三途の川と考えて賽の河原と名づけたものと思われます。森の中に突然現れ、石ばかりが転がっている寂寥とした感じはまさにその名にふさわしく思います。
太子堂
※太子堂
聖徳太子をお祀りするお堂です。境内を入ってすぐに右側の方に行くとあります。
一乗寺のご詠歌
ご詠歌とは、花山法皇が各札所で詠まれた歌と伝えられています。
はるははな なつはたちばな あきはきく
いつもたえなる のりのはなやま
(春は花 夏は橘 秋は菊
いつも妙なる 法の華山)
漢字表記、歌の解釈は紀三井寺前貫主前田孝道師*2によります。
この御詠歌は花づくめです。この寺の開山法道仙人が、はるばる中国より雲に乗って飛来したとき、はるか上空から見て、この山が仏の花、蓮の華に似た山であることから、ここに舞い降り、伝道を始めたという伝説があります。山号も「法華山」といいます。このようなことから、花山法皇がこの寺にお参りし、御詠歌を奉納されるとき、まずはじめに下の句である「いつも妙なる 法の華山」があったかもしれません。
「法の華山」という部分では、もしかすると花山法皇ご自身の名前が織り込まれているのかもしれません。また、「夏は橘 秋は菊」ですが、花山法皇の乳母が橘則光の母右近尼であること、菊は皇室のご紋として使われていることなどを考えると、これも花山法皇に何らかの関係があるように思います。そうすると、「春は花」の部分の「花」は「桜」を意味すると思いますが、これも花山法皇に何らかの所縁があるのかもしれません。
一乗寺へのアクセス
兵庫県公式観光サイト「HYO GO!ナビ」に詳しいアクセス情報が掲載されています。
https://www.hyogo-tourism.jp/spot/result/358(2021.6.17閲覧)
公共交通機関
JR「姫路駅」から神姫バス「小原・法華山一乗寺経由 社」行に乗車、「法華山一乗寺」下車すぐ(「姫路駅」から約40分)。
お車
山陽自動車道「加古川北IC」から北西に約10分。
駐車場あり。150台。環境整備協力費名目で300円。
一乗寺データ
ご本尊 :聖観世音菩薩
宗派 :天台宗
霊場 :西国三十三所 第二十六番札所
播磨西国観音霊場 第33番札所
神仏霊場巡拝の道 第77番
播磨天台六山
所在地 :〒675-2222 兵庫県加西市坂本町821-17
電話番号:0790-48-4000
拝観時間:8:00~17:00
拝観料 :500円
第二十五番 播州清水寺 ◁ 第二十六番 一乗寺 ▷ 第二十七番 圓教寺
南坊の巡礼記「一乗寺」(2021.4.23)
播州清水寺を9時30分ごろに出発し、のどかな国道372号線を1時間程度走ります。窓を開けていても排気ガスに悩まされることもなく、とても快適なドライブです。途中で県道206号線に乗り換え、10時20分ごろ一乗寺の駐車場に到着です。
実は少し手前に、Googleマップでは一乗寺山門と書かれている小さな門があります。そこからはすぐに駐車場に着きますが、お寺が見えてこないうちに駐車場が先に見えてきますので、要注意です。なお、西から来た場合は、先にお寺が見えてきますから、心配いりません。
駐車場の入口のBOXにはお父さまがいらっしゃり、駐車料金300円をお支払いしました。そこそこ車が停まっています。時間がだいぶいい時間になってきたので、参拝者も増えてきたのでしょう。
駐車場からお寺の境内に入る途中に、水子地蔵尊と粟嶋堂という建物があり、ここからもう一乗寺なんだな、と思っていましたが、実は関係ないそうです。
※水子地蔵尊と粟嶋堂
※一乗寺への案内板
上の案内板には、「水子地蔵尊とその堂屋及び粟嶋堂は、法華山一乗寺の宗教活動とは一切関係はありません。」とかなり強い調子で書いてあります。いろいろ問い合わせがあって、迷惑を被っているのでしょう。しかし、知らなかったら一乗寺の建物の一部だと絶対思ってしまうと思います。
なお、境内入口までの道路の南側にはトイレと小さな休憩所があります。トイレはまあ、普通のトイレです。
※一乗寺トイレ
北側には一乗寺の説明板もありました。
※一乗寺説明板
境内案内図だけ拡大しておきます。
※境内案内図
昔は山全体がお寺の境内だったのでしょうが、今はだいぶ規模が小さくなっているようです。
境内の入口までやって来ました。
※境内の入口
境内に入るとすぐに、石造笠塔婆があります。その奥は拝観受付となっています。
※境内入ってすぐ
受付のお母さまに500円をお支払いし、パンフレットをいただいて奥に進みます。本堂に行くには、正面の階段を登っていくか、右の太子堂の方を回って坂を登っていくかの二つの選択肢があります。私は修行ですので、もちろん階段を登っていきます。
※本堂までの石段
なお、これはまだ序の口で、あれを登ったところにあるのは、常行堂です。しかしそれでも石段を見下ろしてみると、結構高さがあるように思います。
※石段を見下ろす
※常行堂
本堂はまだ上の方です。三重塔のレベルまで上がりましょう。
※三重塔説明板
三重塔まで上がってきました。
※下から見上げた三重塔
さすがに国宝に指定されるだけのことはあります。侘びたたたずまいが何とも言えません。このお寺の象徴的存在ですね。
そこから本堂はまだ上です。
※下から本堂を見上げる
登りきったところで三重塔を見るとこんな感じです。第三層と同じくらいの高さでしょうか?
※石段の最上部から見た三重塔
本堂の脇には鐘楼もあります。しかし、なぜか最初に本堂裏の護法堂に行ってしまいました。
※護法堂説明板
説明板の横の階段を少し登ります。
※護法堂
お堂まで近づけないので、遙拝する感じです。後ろを振り向くと、本堂の真裏が一望できます。
※本堂真裏
さて、本堂に入りましょう。
※本堂入口
靴を脱いで向こう側に回っていきます。正面から入るような感じになります。
※本堂回廊から見た三重塔
本堂の回廊から見ると、三重塔の第三層の屋根よりも高いレベルだということが分かります。それにしても立派な相輪です。
本堂の内陣には入ることができます。中には何人か人がいらっしゃいました。納経を済ませて、納経所へ行きます。堂内の右側に納経所があります。
内陣から出て回廊を歩いていくと、奥の方にある妙見堂と弁天堂が見えました。
※本堂回廊から見た妙見堂と弁天堂
また、振り返って三重塔を見るとこんな感じです。
※本堂回廊と三重塔
山々に囲まれた素晴らしい景色です。
この後、妙見堂・弁天堂に参拝し、行者堂まで行きました。
続いて、奥の院を目指します。奥の院には、本堂の奥から入っていくことができます。少し下っていく感じで、また途中で左に曲がって急速に登っていきます。
5分くらい歩いていたでしょうか。奥の院の開山堂が見えてきました。
※開山堂が見える
まあ、登りはそんなにたいしたことはありません。無事に開山堂に到着です。
※開山堂
しかし、登ってきたところを振り返ってみるとこんな感じでした。割と登ってますね。
※開山堂までの登り
そして、賽の河原はさらに奥になります。
※賽の河原登り口
どこまで登んねん、と思いますが、奥に見えている石垣かブロックかよく分からない壁の手前ですので、そんなに登らなくても大丈夫です。ただ、道は悪いです。
※賽の河原までの登り道
石垣かブロックかよく分からない壁がよく見えるようになってきました。
※賽の河原
登り口から2分以内に着いていましたので、そんなに距離はありません。しかし、明るい時間だからいいですが、夕方以降はちょっと怖いでしょうね。岩の下から顔をのぞかせている石仏もかえって不気味な感じがします。
これで一乗寺は奥まで極めましたので、降りていきましょう。行きとは違って、太子堂の方に降りていくことにします。
※法輪堂?の裏
しばらく下っていくと、放生池がありました。
※放生池
池の周りを歩いていて気づいたのですが、小さな祠が結構あるんですよね。西国三十三所の巡礼型かと思ったのですが、よく見ると坂東三十三観音のミニ巡礼でした。
※坂東三十三所の巡礼祠
写真の祠には常陸国の第二十一番札所白輪寺と書かれています。西国三十三所巡礼はほとんどの札所に何らかの形でありましたが、坂東三十三観音は珍しいですよね。しかも、かなりの年代物です。
最後にキレイな太子堂にお参りしました。
※太子堂
結構新しいお堂です。平成か、どんなに古くても昭和後期くらいまでしかさかのぼらないでしょう。資料がないので、正確なことは分かりませんが。
ここから元の拝観受付の方へと戻ります。もう高さ的には同じレベルになっています。
と、石造笠塔婆の前に何とネコちゃんが!
※石造笠塔婆の前を歩くネコ
悠然としています。大事に飼われているのでしょう。
以上で境内は終わりですが、もう一つ見ておきたいものがありました。それは山門です。拝観受付のお母さまにうかがうと、大きな山門はなく、小さな門が道路沿いの東と西にそれぞれある、ということでした。東は見ましたが、西は見ていませんので、圓教寺に向かうついでに見ておこうと思いました。
ということで、11時15分ごろに駐車場を出発します。3~4分で着きました。西の山門です。大きさ的には、東の山門よりわずかばかり小さかったでしょうか。
※西門
うーん、朽ちてますね。これ、台風とかが来たら危ないかもしれませんね。柵で囲って下に入れないようにするとか、ちょっと何とかした方がいいと思います。これは兵庫県か国がやるべき事柄でしょうね。ちょっとお寺や加西市レベルでは金銭的に難しいと思います。県民や国民の安全のためですから、何か考えて欲しいと思います。
というわけで、一乗寺もキレイな山寺でした。宝物館(※要予約)もあるようですので、ぜひ今度はそちらも見てみたいと思います。
というわけで皆さんも! Let’s start the Pilgrimage West!
南坊の巡礼記「播州清水寺」(2021.4.23) ◁ 南坊の巡礼記「一乗寺」(2021.4.23)
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最終更新:2021.6.20
*1:兵庫県立歴史博物館ホームページ「デジタルミュージアム」2021.6.16閲覧
*2:前田孝道『御詠歌とともに歩む 西国巡礼のすすめ』朱鷺書房(1997)