西国お遍路“行雲流水”

西国三十三所や四国八十八ヶ所を雲のごとく水のごとく巡礼した記録

西国三十三所 第十八番札所 六角堂 頂法寺 ~京の都のへそ 生け花発祥の地・池坊~

f:id:nanbo-takayama:20210527111947j:plain

六角堂

西国三十三所の第十八番札所は、紫雲山しうんざん頂法寺ちょうほうじ六角堂ろっかくどうです。京都のビジネスの中心街である烏丸通りのすぐ東側にあり、京都御苑や「三条京阪駅」にも近い要地に建てられています。生け花の発祥地でもあり、華道をたしなむ人にとっての聖地でもあります。

六角堂の巡礼情報

寺号としては頂法寺となりますが、西国三十三所の札所としては六角堂になります。ここでは、お寺としての呼び方も六角堂を使わせていただきます。華道の家元である池坊家が現在もご貫主を務めておられ、境内には池坊会館が建っており、いけばな資料館が併設されています。これについては、下記のサイトをご覧ください。

www.ikenobo.jp(2021.5.27閲覧)

六角堂の縁起

六角堂の成立縁起は、六角堂のホームページに詳しく記載されています。

www.ikenobo.jp(2021.5.27閲覧)

それによりますと、四天王寺建立の資材を求めておられた聖徳太子が、用明天皇2(587)年、この地を訪れられたそうです。この地にあった池で身を清められた際、ご念持仏である如意輪観音像を木に掛けられました。沐浴を終えてご念持仏を取り上げようとしたところ、動かなくなり、この地で人々を救いたいと太子にお告げになりました。そこで太子が六角形のお堂を建立してご念持仏を安置し、頂法寺が成立した、とされます。

なお、頂法寺という寺号についてですが、境内にあった説明板によると、日本で初めての伽藍建立ということで名前がついたとされています。

 

民俗学者の五来重さんは、山のないこの六角堂がなぜ観音霊場になったのかについて考察しておられ、次のように述べておられます*1

六角堂には池があって、現在は井戸として残っています。六角堂本堂の横に池があったればこそ、仏様に花と水を差し上げる役目の山伏が「池の坊」を名乗ったわけです。つまり水に関係があるということです。 

山岳信仰の大元が「水」に対する信仰から来ているのであれば、平地であっても霊泉が湧き出ているならばそこは霊場になり得るわけです。六角堂は京都の「へそ」とも言うべき要地にありますが、聖徳太子が沐浴された霊池があったわけですね。

六角堂の見所

六角堂の見所をご紹介します。

山門

f:id:nanbo-takayama:20210527125234j:plain

※山門

六角堂山門です。六角堂が名前の由来になっている、六角通りに面しています。寛永18(1641)年の再建時に朝廷から陣屋御殿を賜り、本堂山門築地等が復興されたとされます。なお、今の山門の創建年代がこれに当たるかは筆者には不詳です。

本堂(六角堂)

f:id:nanbo-takayama:20210527133926j:plain

※南東から見た本堂

聖徳太子が杉の大樹によって六稜のお堂を建てられ、ご念持仏を安置されたのが始まりとされます。現在の本堂は1876年の再建とのことです。ご本尊は如意輪観世音菩薩で、太子がその守護を小野妹子にお命じになりました。妹子も入道して専務と名乗り、太子沐浴の池の傍らに寺坊を営んだことから池坊が成立しました。京都市の指定有形文化財です。なお、脇侍は地蔵菩薩立像と毘沙門天立像ですが、毘沙門天立像は国指定の重要文化財になっています。

へそ石

f:id:nanbo-takayama:20210527131301j:plain

※へそ石

桓武天皇が長岡京から平安京へ遷都される際、六角堂の位置が計画上の道路に所在したため、遷座を祈願されたところ、御堂が自ら五丈(約15メートル)ほど北へ移動したそうです。この石はその時に残された礎石とされます。京都のほぼ中央にも当たることから、「へそ石」や「要石かなめいし」とも呼ばれています。江戸時代末期までは、祇園祭の山鉾巡行の順番を決める「籤くじ取り式」もこの六角堂で行われていたとされます。かつては六角通りの中央にありましたが、明治時代になって境内に移されました。

十六羅漢

f:id:nanbo-takayama:20210527132258j:plain

※十六羅漢と合掌地蔵(左手前)

十六羅漢の像です、池の周りを巡らせるように配置されています。「和顔愛語」を実践した「にこにこ」とした表情が特徴的です。

親鸞堂

f:id:nanbo-takayama:20210527132631j:plain

※親鸞堂

親鸞聖人が比叡山から六角堂に参籠されていた際、95日目にご本尊の「法然の下で学ぶように」というお告げを得たそうです。いわば後の浄土真宗改宗のきっかけともなった場所です。そこで親鸞堂では参拝途中の「草鞋の御影」と、夢告を得たときの「夢想之像」の二体の親鸞像を安置しているとのことです。

聖徳太子沐浴の古跡

f:id:nanbo-takayama:20210527133350j:plain

※聖徳太子沐浴の古跡

聖徳太子がこの地で沐浴をされ、ご念持仏がこの地で人々を救うと告げられたことから、ここに六角堂が建立されました。右の建物は太子堂です。

北向地蔵尊

f:id:nanbo-takayama:20210527134036j:plain

※北向地蔵尊

京都御所を護るために北を向いている地蔵尊です。御所を守ることは、人々の生活を守ることにつながったとされます。境内にはこの他にも多くのお地蔵さまがお祀りされています。

六波羅蜜寺のご詠歌

ご詠歌とは、花山法皇が各札所で詠まれた歌と伝えられています。

わがおもう こころのうちは むつのかど

 ただまろかれと いのるなりけり

(わが思う 心のうちは 六つの角

   ただ丸かれと 祈るなりけり)

漢字表記、歌の解釈は紀三井寺前貫主前田孝道*2によります。

やさしい言葉で綴られた御詠歌です。「六の角」とはこの寺の御本堂六角堂を意識して用いられています。六という数は仏典にしばしば出てきます。先の六波羅蜜、六道輪廻(地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上)の六などもありますが、ここでは眼げん・耳・鼻・舌ぜつ・身しん・意の六根、色しき・聲しょう・香こう・味・觸そく・法ほうの六識の六と考える方が適切かと思われます。

即ち人間は、本来汚れのない六根六識を備えて生まれてきていますが、いつしかそれらは煩悩の垢にまみれ、素直な心で受けとれば何でもないものを、自己流の欲の色眼鏡で見るために、他人のすること為すことが気にくわぬようになり、眼も耳も、ものごとを正しく受け入れられなくなり、身も心もとげとげしくなるものです。「六の角」とは、わが心に生じたとげとげしい心です。そのような心で世渡りをして、人間関係がうまくいくはずがありませんし、自身幸せではありません。いくら表面だけ愛想笑いをしていても、心の棘はいつしか現れるものです。世の中には信じ難いほどの悪人もないではありませんが、円満な心で、毎日を笑顔で過ごすことができれば、どんなに楽しいかしれません。

ちょっと長くなってしまいましたが、六という数字に意味があったということがお分かりいただけたかと思います。和歌の解釈は素人ですが、どうやらこれ以外には掛け言葉等もないように思います。

六角堂へのアクセス

六角堂のホームページに詳しいアクセス情報が掲載されています。

www.ikenobo.jp(2021.5.27閲覧)

公共交通機関

京都市営地下鉄「烏丸御池駅」から徒歩約5分。

お車 

第二京阪道路「鴨川西IC」から北に約15分。

駐車場なし。

境内南側に民営の六角堂南駐車場あり。最初の60分600円。

六角堂データ

ご本尊 :如意輪観世音菩薩

宗派  :天台系単立

霊場  :西国三十三所 第十八番札所

     洛陽三十三所観音霊場巡礼 第1番

     聖徳太子御遺跡霊場 第25番

所在地 :〒604-8134 京都市中京区六角通東洞院西入堂之前町248

電話番号:075-221-2686

拝観時間:6:00~17:00

拝観料 :無料       

URL   :http://www.ikenobo.jp/rokkakudo/

 

第十七番 六波羅蜜寺 ◁ 第十八番 六角堂 頂法寺 ▷ 第十九番 革堂 行願寺 

南坊の巡礼記「六角堂 頂法寺」(2021.4.15)

六波羅蜜寺を12時45分ごろに出発し、急いで京都市営清水坂駐車場に戻ります。車に乗り込み、13時00分ごろに出発しました。事前のリサーチでは六角堂に駐車場がないことは分かっていましたので、六角堂のすぐ目の前にある六角堂南駐車場に停めようと思っていました。そのためには六角通りに入る必要がありますが、六角通りは東向きの一方通行です。出ました、京都の道のややこしさですね。

そこで、まずは東大路通りを三条通りまで北上し、三条通りを西に進みます。そして三条通りは「河原町三条」以西がアーケード街になっていることを知っていましたので、鴨川の手前、川端通りを北上して、御池通りを西に向かいます。そこで「烏丸御池」の交差点から南に折れていきました。この辺の通行ルート選択は、京都の学校に長いこと行っていたからこそできる技ですね。

烏丸御池」から南は、「♪姉三六角蛸錦あねさんろっかくたこにしき」の順番のとおり、三番目の六角通りを東に入っていきます。すると本当にすぐに到着です。ビルの谷間に忽然と現れる感じです。

13時30分に、六角堂南駐車場に入庫しました。ほとんどが二段式駐車装置ですが、手前に3台分平地の駐車スペースがあります。六角堂の参拝と言うと、お兄さんがそこに停めさせてくださいました。

車を降りて六角堂へ行きます。結構参拝者が多いです。六波羅蜜寺も多かったですが、ここはさらに多いように思います。池坊のお膝元ということもあり、着物姿の方もチラホラといらっしゃいました。若いカップルもいらっしゃいました。

まずは本堂へ行きます。

f:id:nanbo-takayama:20210527130440j:plain

※本堂正面

f:id:nanbo-takayama:20210527145239j:plain

※六角堂説明板

本堂納経をさせていただきました。ご本尊厨子の中に納まっておられますので、お前立ちのお姿を拝することはできます。

納経所は別棟で、山門入ってすぐの右手側にあります。参拝者は多いのですが、ご宝印をいただきに入って来られる方は少なかったです。私と、その前の方、私の後から数名来られた感じでしょうか。本堂にご参拝される方が列をなしているのと比べると、まばらです。

境内の右側には池があり、これが聖徳太子の沐浴池だろうかと思い結構写真を撮っていました。

f:id:nanbo-takayama:20210527145822j:plain

※十六羅漢などが配されている池 奥は家元道場

境内の右の奥には、親鸞堂と鎮守社があります。親鸞堂の手前には、親鸞聖人の立像もありました。

f:id:nanbo-takayama:20210527150047j:plain

※親鸞聖人立像

f:id:nanbo-takayama:20210527150214j:plain

※親鸞堂

ガラスから親鸞聖人の像が少し透けて見えます。写っているのは私です。

この後、境内の北側に進んでいきますと、今度こそ本当の聖徳太子所縁の池の登場です。

f:id:nanbo-takayama:20210527150446j:plain

※聖徳太子沐浴の古跡

池を写真に撮るのはいいと思うのですが、この後、白鳥がいたのでそちらに気をとられてしまい、なぜか太子堂の写真を1枚も撮っていないという凡ミスをやらかしてしまいました。太子堂弁天堂と勘違いしてしまったのかもしれませんが。

f:id:nanbo-takayama:20210527150709j:plain

※白鳥

なぜか2羽の白鳥がいました。勝手に飛んできたということはないと思いますので、飼育されているのだと思います。

ぐるっと歩いて、六角堂の裏側を回って境内の西側へ出ます。

f:id:nanbo-takayama:20210527133831j:plain

※北西から見た本堂

境内の西北側に『池坊専応口伝』のモニュメントがありました。川端康成先生がノーベル文学賞を受賞された際、日本美術の特質と伝統について述べられ、この花伝書を引用されたそうです。これは池坊にとっても大変名誉なことだったでしょう。

f:id:nanbo-takayama:20210527151034j:plain

※『池坊専応口伝』モニュメント

この後、北向地蔵尊を見たのですが、ふと気づきました。へそ石を見ていないことに!

事前の予習では、様々な本がこのへそ石のことについて触れていましたので、これは見ないわけにはいかないと思っていたのです。危うく見落とすところでした。参拝するお寺の数が増えると、そもそも気づかずに忘れたままになってしまう可能性も高まってしまうと思います。ギリギリセーフ、でした。

境内をくまなく探してみます。割と境内入ってすぐのところにありました。その辺りを2回くらいは通っていたはずですが、全然気づいていなかったのです。

f:id:nanbo-takayama:20210527151828j:plain

※茂みに隠れているへそ石

しかしこれ、見落としていてもおかしくないように思います。ちょうどいい感じに隠れすぎでしょう。わざとなのかどうなのか分かりませんが、後ろの柳?がちょうど視界をさえぎってしまっていました。気づかないはずです。思わぬトラップにかかるところでした。

これで参拝は終了です。ただ、もう一つやりたいと思っていたことがありました。敷地内にWEST18というビルが建っているのですが、そのエレベーターに乗ると上から六角堂を見下ろすことができるのです。というわけで巡礼衣を車に戻し、身軽になってWEST18の中に入りました。1階は烏丸通りに面しており、スターバックスコーヒー京都烏丸六角店が入っています。

エレベーターは3基あり、とりあえず最初に来たエレベーターに乗り込みました。すぐに上り始めます。しかし、まったく六角堂が見えません。

当たり前です。このエレベーターはBOXの壁が透明になっていないのです。「?」と頭に浮かべながら1階まで戻り、外に出ます。確かに、ガラス張りになっているエレベーターもあります。どうやら、すべてのエレベーターがガラス張りになっているわけではなく、外から見ると一番右側のエレベーターだけがガラス張りになっているようです。

再び挑戦です。ちょうど私がWEST18に入ろうとすると、ベビーカーを押した若いお母さんが扉を開けるところでしたので、私が開けて扉を支えてさしあげました。私も観音さまのお心に近づけたでしょうか。

中に入りエレベーターの「上」のスイッチを押します。すると、また別のエレベーターのドアが開いてしまいました。これはガラス張りが来るまで運試しが続くのか?と焦ったところ、すぐにガラス張りのエレベーターのドアも開きました。ラッキーでした。

エレベーターからは外がよく見えます。上り始めるとすぐに、六角堂の屋根が見えました。

f:id:nanbo-takayama:20210527153151j:plain

※六角堂の屋根 左上が太子堂

エレベーターは上に停まりますが、誰も乗ってこなかったので、そのまま1階へと降りていきます。わずか10数秒の空中散歩でした。

1階に降りると境内を出て、駐車場に戻りました。

私の参拝中も、ひっきりなしに参拝者が訪れられるお寺で、今でも京都の皆さんに愛されていることがよく分かります。実は鐘楼など見落としているものもありますので、また参拝したいと思います。

というわけで皆さんも! Let’s start the Pilgrimage West!

 

南坊の巡礼記「六波羅蜜寺」(2021.4.15) ▷ 南坊の巡礼記「六角堂 頂法寺」(2021.4.15)

南坊の巡礼記「六角堂 頂法寺」(2021.4.15) ▷ 南坊の巡礼記「革堂 行願寺」(2021.4.16)

*1:五来重『西国巡礼の寺』角川書店(1996)

*2:前田孝道『御詠歌とともに歩む 西国巡礼のすすめ』朱鷺書房(1997)