西国お遍路“行雲流水”

西国三十三所や四国八十八ヶ所を雲のごとく水のごとく巡礼した記録

奈良国立博物館特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」に行ってきました!

奈良国立博物館

2025年5月5日、奈良国立博物館で開催されている特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」に行ってきました!

実は万博開催の裏で、関西では多くの国宝を集めた特別展が、3つも開催されています。それが以下の3つで、いずれも6月15日(日)までの開催です。

 

奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」

京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」

大阪市立美術館 特別展「日本国宝展」

 

この3つの特別展のうち、最も宗教色が強いのがこの「超 国宝」展でしょう。やはり、巡礼ヤーとしては行かないといけませんね。というわけで、特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」のレポートです。

奈良に行くのは、前年の5月3日、やはり奈良国立博物館で開催されていた特別展「空海展」を見に行って以来です。もっと行くべきところなのですが、いろいろ忙しいのでなかなか足が向きません。今年はどうでしょうかね。

さて、前年は8時半ごろに満車になっていたという自分自身の記録に鑑みて、早めに出発することにしました。7時ごろに家を出て、車で向かいます。前年と同じく、1時間足らずで奈良の登大路駐車場に到着しました。この駐車場、奈良県庁と奈良公園の間ぐらいにあり、興福寺東大寺も指呼の距離にあるという、好立地の駐車場です。また、トイレなども併設されており、利便性が高いですね。

どうやら値段が改定されていたようで、土日祝は終日2,000円となっていました。それでもまあ許容範囲だと思います。安いところはもっと遠くになるか、あるいはパーク&ライドのような形式になってしまいますからね。

実は行政の方でもこの奈良市中心部の交通渋滞を問題視しているらしく、帰りにアンケートを頼まれ、奈良市役所の駐車場に停めた場合、無料でシャトルバスが出ていると案内されました*1。ただ、私は朝8時、空いている時間帯に入庫して、13時ごろ、空いている時間帯に出庫していますので、あんまり関係ないんですよね。あと、このホームページを見るかぎりでは、奈良市役所の駐車場がどこにあるのか分からないです。

まあそれはさておき、です。

特別展「超 国宝―祈りのかがやき」

それでは、特別展の魅力について簡潔に記していきたいと思います。

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」について

奈良国立博物館で、開館130年記念特別展として2025年4月19日(土)から6月15日(日)まで開催されているのが、特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」です。あわせて、なら仏像館では期間未定(令和10年度予定)で名品展「特別公開 金峯山寺仁王門 金剛力士立像 ―奈良・金峯山寺所蔵―」が、また名品展「珠玉の仏たち」も開催されています。さらに、青銅器館では名品展「中国古代青銅器」が開催されています。見るべきものが多くて、本当に体力と時間が足りません。

ここではまず、特別展「超 国宝―祈りのかがやき」についてレポートしていきたいと思います。

特別展「超 国宝―祈りのかがやき」は、次の7つの章に分かれています。

第1章 南都の大寺

第1章の見所を、公式ホームページ*2の引用にてお伝えいたします。

明治維新による急激な社会変動の中、仏像をはじめとする多くの文化財は散逸の危機に瀕しました。奈良博の歴史はこうした文化財の保護とともにあったといえるでしょう。一方で奈良博は、南都(奈良)の名だたる大寺の協力によって育てられ、多くの発見や感動を生みだしてきました。本章では特に奈良博の歴史と関係の深い南都の大寺に伝えられた仏像を中心にご紹介します。

何といっても奈良は、仏教の都です。総国分寺として聖武天皇勅願で建立された東大寺を筆頭に、興福寺元興寺大安寺西大寺薬師寺法隆寺は南都七大寺と総称されます。いずれのお寺も時代による栄枯盛衰はありながらも、寺宝となる仏像や仏画を保護、伝承してこられました。西国三十三所の第九番札所である興福寺だけでも、18軀の仏像が国宝に指定されています。まあ、興福寺はすぐ近くにあるので、そこに所蔵されている国宝は少しだけ足を延ばせば直接、いつでも拝見することができます。

しかし、それ以外のお寺の国宝に関して、ここで一気に見ることができるのは大きなメリットです。もう国宝の価値がインフレで下がってしまうくらいの状況です。

それでも、やはり別格とも言うべき存在が、入ってすぐ、真正面に鎮座まします、百済観音ですね。

 

・観音菩薩立像(百済観音) 1軀 国宝 法隆寺所蔵 飛鳥時代(7世紀)

※百済観音(出典:Wikipedia

 

かの和辻哲郎先生も奈良国立博物館にてご覧になったという百済観音ですね。ちょっと長くなりますが、『古寺巡礼』のなかでもかなり熱を入れて論じておられるので、引用しましょう*3

聖林寺観音の左右には大安寺だいあんじの不空羂索観音や楊柳観音ようりゅうかんのんが立っている。それと背中合わせにわが百済観音が、縹渺ひょうびょうたる雰囲気を漂わしてたたずむ。これは虚空蔵こくうぞうと呼ぶのが正しいのかも知れぬが、伝に従ってわれわれは観音として感ずる。

和辻哲郎先生がご覧になったころは、まだ虚空蔵菩薩とする説もあったようです。「縹渺」とは、『デジタル大辞泉』によると「広くはてしないさま」と「かすかではっきりとしないさま」の2つの意味がありますが、確かに、とらえどころのない、気高い空気感があります。

さらに引用します。一部、現在では差別的表現とされる部分もありますが、原文のまま引用したいと思います。

百済観音は写実的根拠を有する点において聖林寺観音に劣らない。あの肩から腕へ、胸から胴への清らかな肉づけや、下肢に添うて柔らかに垂れている絹布のひだなどには、現実を鋭く見つめる眼のまがいなき証拠が現われている。しかしこの作家の強調するところは聖林寺観音の作家の強調するところと、ほとんど全く違っているのである。この相違のうしろには、民族と文化とのさまざまな転変や、それに伴う作家の変動などが見られるかもしれない。

百済観音は朝鮮を経て日本に渡来した様式の著しい一例である。源は六朝時代のシナであって、さらにさかのぼれば西域よりガンダーラに達する。上体がほとんど裸体のように見えるところから推すと、あるいは中インドまで達するかも知れない。しかるにこのガンダーラもしくはインド直系であるはずの百済観音は、ガンダーラ仏あるいはインド仏に似るよりも、むしろはるかに多く漢代の石刻画を思わせる。全体の気分も西域的ではない。すなわちガンダーラやインドの美術はシナにはいってまず漢化せられたのである。もっとも漢化せられずに西域そのままの様式を持続していたもののあることは大同の石仏などの示している通りであるが、しかし百済観音が代表しているのは漢化せられた様式だけである。そうしてこの様式こそシナにおける創作と言い得るものであろう。シナの美術が全面的にギリシア美術の精神を生かしてきたのは、ガンダーラが廃滅に帰した後、恐らく二世紀以上もたってから、玄弉げんじょうが中インドのグプタ朝の文化を大仕掛けに輸入した後のことらしい。かく漢化の時代が先に立ち、諸文化融合の時代があとに来たために、様式の変化は歴史の進程と逆になっているが、そこにはまた六朝からへかけてのシナ文化の推移が語られているように思う。

百済観音をこの推移の標本とするのは、少し無理である。竜門の浮き彫りなどに現われた直線的な衣の手法は、夢殿観音には似ているが百済観音には似ていない。しかしここで問題としたいのは、あの直線的な手法の担っている様式的な意義なのである。百済観音は確かにこの鋼の線条のような直線と、鋼の薄板を彎曲させたような、硬く鋭い曲線とによって貫かれている。そこには簡素と明晰とがある。同時に縹渺とした含蓄がある。大ざっぱでありながら、微細な感覚を欠いているわけでもない。形の整合をひどく気にしながらも、形そのものの美を目ざすというよりは、形によって暗示せられる何か抽象的なものを目ざしている。従って「観音」という主題も、肉体の美しさを通して表現せられるのではなく肉体の姿によって暗示せられる何か神秘的なものをとおして表現せられるのである。垂れ下がる衣のひだの、永遠を思わせる静けさのために、下肢の肉づけを度外しているごときは、その一例と見ることができよう。従ってこの作家は、肉体の感覚的な性質の内へ食い入って、そこから神秘的な美しさを取り出すというよりも、表面に漂う意味ありげな形を捕えて、その形をあくまでも追究して行こうとするのである。そこにの様式の特質も現われている。
しかしこの像の美しさは、それだけでは明らかにならない。右のようなの様式の特質を中から動かして仏教美術の創作に趣かせたものは、漢人固有の情熱でも思想でもなかった。外蛮の盛んな侵入によって、血も情意も烈しい混乱に陥っていた当時の漢人は、和らぎと優しみとに対する心からの憧憬の上に、さらにかつて知らなかった新しい心情のひらめきを感じはじめていた。それは地の下からおもむろに萌え出て来る春の予感に似かよったものであった。かくしてインドや西域の文化は、ようやく漢人に咀嚼そしゃくせられ始めたのである。異国情調を慕う心もそれに伴って起こった。無限の慈悲をもって衆生を抱擁する異国の神は、ついにひそやかに彼らの胸の奥に忍び込んだのであった。

抽象的な「天」が、具象的な「仏」に変化する。その驚異をわれわれは百済観音から感受するのである。人体の美しさ、慈悲の心の貴さ、――それを嬰児えいじのごとく新鮮な感動によって迎えた過渡期の人々は、人の姿における超人的存在の表現をようやく理解し得るに至った。神秘的なものをかくおのれに近いものとして感ずることは、――しかもそれを目でもって見得るということは、――彼らにとって、世界の光景が一変するほどの出来事であった。彼らは新しい目で人体をながめ、新しい心で人情を感じた。そこに測り難い深さが見いだされた。そこに浄土の象徴があった。そうしてその感動の結晶として、の様式をもってする仏像が作り出されたのである。

わたくしは百済観音がシナ人の作だというのではない。百済観音を形成している様式の意義を考えているのである。シナではそれはいくつかの様式のうちの一つであった。しかし日本へくるとこの様式がほとんど決定的な力を持っている。それほど日本人はこの様式の背後にある体験に共鳴したのである。

百済観音の奇妙に神秘的な清浄な感じは、右のごとき素朴な感激を物語っている。あの円い清らかな腕や、楚々として濁りのない滑らかな胸の美しさは、人体の美に慣れた心の所産ではなく、初めて人体に底知れぬ美しさを見いだした驚きの心の所産である。あのかすかに微笑を帯びた、なつかしく優しい、けれども憧憬の結晶のようにほのかな、どことなく気味悪さをさえ伴った顔の表情は、慈悲ということのほかに何事も考えられなくなったういういしい心の、病理的と言っていいほどに烈しい偏執を度外しては考えられない。このことは特に横からながめた時に強く感ぜられる。面長おもながな柔らかい横顔にも、薄い体の奇妙なうねり方にも。

――六朝りくちょう時代の技巧を考慮せず、ただ製作家の心理を忖度そんたくしてこの観音の印象を裏づけようとするごときは、無謀な試みに相違ない。しかし百済観音の持っている感じはこうでもしなくてはいい現わせない。あの深淵しんえんのように凝止ぎょうししている生の美しさが、ただ技巧の拙なるによって生じたとは、わたくしには考えられぬ。

もう絶賛としか言いようがない評ですね。写真を見ていただければ分かるとおり、この百済観音は異様なほど細く、そして真っ直ぐに屹立しています。像高は209.0cmもあり、下から見上げるような感じになります。

ほんの少し押せば倒れそうな儚げな印象もありながら、しかし仏像としての力強さ、衆生を救済する意志の力なども感じられます。他の観覧者の方がおっしゃっていましたが、これを見るだけでも価値があります。

この像については、NHKプラスでも、3つの特別展を紹介する番組「国宝を売り込め!大作戦 ~3つの国宝祭りの舞台裏~」においてご覧になれます。

www.nhk.jp(2025.5.6閲覧)

何しろ、危ういくらいに細い百済観音ですので、運ぶ時も大変苦労されたようです。その様子なども、拝見することができます。また、百済観音を観覧者にキレイに見せるためのライティングの工夫なども見られました。

余談ですが、百済観音の光背部分が、非常に平面的に見えてしまい、実は発砲スチロールかなんかに写真を貼ったものなんじゃないかと疑っていましたが、実際に見ると本物でした。しかし、間近で見ても、非常に平面的に見えることは確かです。

さて、百済観音だけでかなり記述が長くなってしまいました。

この章では、他にも国宝が27種、重要文化財が3種(後期は1種追加)展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*4からダウンロードできます。ここでは、国宝のみご紹介します。

 

・四天王立像 広目天・多聞天2軀(4軀のうち) 法隆寺所蔵 飛鳥時代(7世紀)

・地蔵菩薩立像 1軀 法隆寺所蔵 平安時代(9世紀)

・天人 鳳凰(金堂天蓋付属) 各2軀 法隆寺所蔵 飛鳥時代(7世紀)

・天寿国繡帳 1 帳 中宮寺所蔵 原本部分・飛鳥時代(推古天皇30年(622)頃)

                  模本部分・ 鎌倉時代(建治元年(1275))

・黒漆螺鈿卓 1脚 法隆寺所蔵 平安時代(12世紀)

・葡萄唐草文染韋 1枚 東大寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・重源上人坐像 1軀 東大寺所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・東大寺文書(成巻文書)第六巻・第四十九巻 2巻 東大寺所蔵 平安~南北朝時代
(10~14世紀)

・醍醐寺文書聖教(東大寺大仏殿図) 1枚 醍醐寺所蔵 鎌倉時代(弘安7年(1284))

・倶舎曼荼羅 1幅 東大寺所蔵 平安時代(12世紀)

・信貴山縁起絵巻 尼公巻1巻(3巻のうち) 朝護孫子寺所蔵 平安時代(12世紀)

・東大寺金堂鎮壇具 1括 東大寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・興福寺金堂鎮壇具 1括 東京国立博物館 奈良時代(8世紀)

・慈恩大師像 1幅 薬師寺所蔵 平安時代(11世紀)

・伝獅子吼菩薩立像 1軀 唐招提寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・薬師如来立像 1軀 唐招提寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・薬師如来立像 1軀 元興寺所蔵 平安時代(9世紀)

・維摩居士坐像 1軀 法華寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・義淵僧正坐像 1軀 岡寺所蔵 奈良時代(8世紀)

・薬師如来坐像 1軀 奈良国立博物館所蔵 平安時代(9世紀)

・光背(十一面観音立像所用) 1面 聖林寺所蔵 奈良時代(8世紀)

もうこの段階で「空海展」を超える数の国宝が出展されているんじゃないかという……。もうすご過ぎて、言葉も出ないですね。この章だけでも、かなり時間がかかります。

ちなみに義淵僧正座像は「西国三十三所 第七番札所 岡寺 ~龍封じの池 日本最初の厄除け龍蓋寺~」で紹介済みです。

第2章 奈良博誕生

第2章の見所を、公式ホームページ*5の引用にてお伝えいたします。

奈良博の誕生以前、明治8年(1875)から18回にわたり、東大寺を会場として奈良の文化財や産業を紹介する「奈良博覧会」が開催されました。その反響は、やがて博物館の構想に結びつき、帝国博物館(現東京国立博物館)に次ぐ国立の博物館として、明治28年(1895)に帝国奈良博物館(現奈良博)が誕生しました。本章では奈良博覧会から奈良博誕生の歩みにまつわる文化財をご覧いただきます。

天下の大愚策、明治時代の神仏分離令でお寺はかなり受難の時代を迎えました。その苦難のなか、仏像をはじめとする文化財の保護には、かなり頭を痛めていたようです。帝国奈良博物館は、そのような文化財保護の観点から、大いに役立ったのでした。

とはいうものの、多くのお寺がその後、自前の収蔵施設を完成させ、収蔵品の多くは各寺院に返還されたそうです。それを受けてか、この章ではいったん国宝の数は落ち着きます。

そのなかで巡礼ヤーとして一番心動かされたのは、金銅燈籠です。

 

・金銅燈籠 1基 興福寺所蔵 平安時代(弘仁7年(816))

 

総高236.0cmもあり、何とあの興福寺南円堂正面に安置されていたとか。銘文を書いたのは橘逸勢とも言われており、多くの巡礼者がこの燈籠を目にしたかと思うと、かなり胸が熱くなります。今、南円堂の正面には、細身の燈籠が建てられていますが、そこに建っていたのでしょうね。

※興福寺南円堂(2021.4.2撮影)

ちなみにこれ、私は初見だと思っていました。ところが改めて調べてみますと、上掲写真を撮った時、つまり興福寺南円堂参拝時に国宝館も参観しており、そこで見ていたようです。初見のように感銘を受けていたのに、ただ単に見たことを忘れていたとは、馬鹿ですね。

この章では、他にも国宝が5種、重要文化財が8種展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*6からダウンロードできます。ここでは、国宝のみご紹介します。

 

・竜首水瓶 1口 東京国立博物館所蔵(法隆寺献納宝物) 飛鳥時代(7世紀)

・鵲尾形柄香炉 1柄 東京国立博物館所蔵(法隆寺献納宝物) 朝鮮半島・三国時代または飛鳥時代(6~7世紀)

・天燈鬼・龍燈鬼立像 2軀 興福寺所蔵 鎌倉時代(建保3年(1215))

・伎楽面 呉公 1面 東京国立博物館所蔵(法隆寺献納宝物) 飛鳥時代(7世紀)

 

竜首水瓶も教科書で見たことがあるように思います。これだけでも普通の特別展ならスゴイ!と思うのですが、今回は「超 国宝」だけに、すごさが相対的に弱くなっていますね。

第3章 釈迦を慕う

第3章の見所を、公式ホームページ*7の引用にてお伝えいたします。

奈良の地で栄えた仏教の大きな流れとして、釈迦とその遺骨である仏舎利への信仰があります。本章では、飛鳥寺の舎利埋納にはじまり、鎌倉時代に隆盛をみせた律宗の僧である尊による舎利信仰まで、釈迦を慕う思いが生み出した各時代における名宝を展示します。なかでも我が国を代表する釈迦如来像の名作とともに舎利荘厳具の数々が一堂に会する展示は必見です。

キリスト教にもイエス所縁の品を聖遺物として信仰する風習がありますが、仏教もまったく同じです。とくに、お釈迦さまの骨は仏舎利として、篤く信仰されました。仏舎利とされる遺物を世界中から集めたら、どれぐらいの量になるんでしょうね。人、ひとり分の骨の量を超えているように思います。

さて、ここではお釈迦さまの像や仏舎利などが展示されています。

ここで印象に残ったのは、室生寺所蔵の釈迦如来坐像ですね。

 

・釈迦如来坐像 1軀 室生寺所蔵 平安時代(9世紀)

※釈迦如来坐像(出典:Wikipedia

何でしょう、言葉は悪いですが、ずんぐりむっくりとした体形です。それでいて、顔が相対的に小さく、結跏趺坐の姿で造られているので、非常に安定感のある、三角形のような造形になっています。非常に写実的でもあり、お釈迦さまがこのようなお顔をされていたとしても、違和感を感じさせない面差しです。

この章では、他にも国宝が12種、重要文化財が1種展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*8からダウンロードできます。ここでは、国宝のみご紹介します。

 

・崇福寺塔心礎納置品 1括 近江神宮所蔵 飛鳥時代(7世紀)

・粟原寺三重塔伏鉢 1箇奈良時代 和銅8年(715年)奈良・談山神社

・銅板法華説相図 1面 長谷寺所蔵 飛鳥~奈良時代(7~8世紀)

・刺繡釈迦如来説法図 1面 奈良国立博物館所蔵 中国・唐または飛鳥時代(7世紀)

・釈迦如来倚像 1軀 深大寺所蔵 飛鳥時代(7世紀)

・釈迦如来立像納入品 霊山変相図 1枚 清涼寺所蔵 中国・北宋(10世紀)

・金亀舎利塔 1基 唐招提寺所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・金銅透彫舎利容器 1基 西大寺所蔵 鎌倉時代(13~14世紀)

・鉄宝塔および五瓶舎利容器 1具 西大寺所蔵 鎌倉時代 弘安7年(1284)

・金銅能作生塔 1基 長福寺所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・十六羅漢像 第八尊者・第十六尊者 2幅(16幅のうち) 東京国立博物館 平安時代(11世紀)

 

字面だけ見ていたら、そろそろ国宝に飽きてくるかもしれません。しかし、実際に回っていた私は、時間をまったく忘れて見入っていました。

第4章 美麗なる仏の世界

第4章の見所を、公式ホームページ*9の引用にてお伝えいたします。

善を尽し、美を尽す。仏像や仏画を中心とした祈りの造形は、その時代ごとになし得る最高の美意識と技術を集めて作り上げられました。本章では、華麗なる彩色や截金きりかねを駆使した平安仏画のほか、平安から鎌倉時代に制作されたとりわけ美しい仏像や工芸作品をご覧いただきます。また地獄草紙や病草紙など、ほとけの救いと明暗をなす世界を描いた作品の数々も見所です。

「見どころ」として書かれている地獄草紙は残念ながら後期展示となっているので、5月20日以降にお目見えとなります。しかし、病草紙は拝見することができます。逆に病草紙と辟邪絵は前期しか見ることができませんので、どっちをとるかは非常に悩ましいところです。もちろん、前期・後期両方来れるならば、それに越したことはありませんが。

 

・辟邪絵 5幅 奈良国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

・病草紙 4巻(9巻のうち) 京都国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

 

鬼を喰らう辟邪が描かれた絵は、なかなか迫力があります。一方で、病草紙の方はなかなかシュールで、コミカルです。展示されている4巻は、両性具有の男性?が描かれた「ふたなり」、いんちき眼科医の治療で眼から血を流して失明してしまう「眼病の治療」、お尻の穴がいっぱい開いてしまい、同時にたくさんの穴から排泄する「痔瘻の男」、容姿は端麗だが口が臭すぎるので楊枝での手入れが欠かせない「口臭の女」の4巻です。周りから嘲笑われているさまが、ちょっとかわいそうです。

この章では、他にも国宝が14種、重要文化財が1種展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*10からダウンロードできます。ここでは、国宝のみご紹介します。

 

・菩薩半跏像 1軀 宝菩提院願徳寺所蔵 平安時代(8世紀)

・虚空蔵菩薩立像 1軀 醍醐寺所蔵 平安時代(9世紀)

・大日如来坐像 1軀 円成寺所蔵 平安時代(安元2年(1176))

・十一面観音像 1幅 奈良国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

・千手観音像 1幅 東京国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

・訶梨帝母像 1幅 醍醐寺所蔵 平安時代(12世紀)

・辟邪絵 5幅 奈良国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

・病草紙(ふたなり・眼病の治療・痔瘻の男・口臭の女) 4巻(9巻のうち) 京都国立博物館所蔵 平安時代(12世紀)

・牛皮華鬘 2枚 奈良国立博物館所蔵 平安時代(11世紀)

・中尊寺金色堂堂内具のうち金銅華鬘・金銅幡頭 2枚 中尊寺金色院所蔵 平安時代(12世紀)

・金銅密教法具 1具 嚴島神社所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・金銀鍍透彫華籠 1枚(16枚のうち) 神照寺所蔵 南北朝時代(14世紀)

・両界曼荼羅(子島曼荼羅) 2幅 子嶋寺所蔵 平安時代(11世紀)

・五大尊像(不動明王・降三世明王・軍荼利明王・大威徳明王・烏瑟沙摩明王) 5幅 来振寺所蔵 平安時代(11~12世紀。降三世明王は寛治2年(1088)、軍荼利明王は寛治4年(1090))

この両界曼荼羅は、神護寺のものと比べると迫力は幾分負けていますが、しかしかなりきれいに絵が残っているのがいいですね。

第5章 神々の至宝

第5章の見所を、公式ホームページ*11の引用にてお伝えいたします。

奈良博が大切にしてきた展示テーマの一つとして神道の美術があります。仏教以前から鏡や剣によって象徴されてきた神々は、やがて神像としても表現され、また神々に捧げるための工芸品も数多く製作されました。本章では東アジアの古代史を語る上でも欠かせない石上神宮の七支刀をはじめ、神々の姿を表した絵画や彫刻、精緻な技巧が凝らされた神宝を通じ、神々に対する祈りの世界をご覧いただきます。

ここは公式ホームページにも挙げられている、2つの名品が特徴と言えるでしょう。もう国宝中の国宝、キング・オブ・国宝が展示されています。

一つは吉祥天像、もう一つは七支刀ですね。いずれも歴史の教科書などで見ましたよね。本当に、後世に伝えていくべき逸品です。

 

・吉祥天像 1面 薬師寺所蔵 奈良時代(8世紀) ※5月6日まで

・七支刀 1口 石上神宮所蔵 古墳時代(4世紀)

 

ただ、吉祥天像は思ったほど大きくありません。縦53.3cm、横32.0cmですので、一般的なポスターよりも小さいです。イメージで1メートルぐらいあるのかと思っていました。これ、印象としてはパリのルーブル美術館でモナ・リザを見た時と同じ感じでしょうか。ちょっと拍子抜けというと言葉が悪いですが、思っていたよりも小さいなと感じました。

そして、七支刀は特別な存在ですね。展示としては第5章の出展品となっていますが、実は最後の最後に展示されています。混雑緩和のため、ということになっていますが、まあ大御所の登場は最後でも当然かと思いますね。

厚さは4.5mmほどとされており、その薄さの宝剣を守り続けたその精神がすごいですね。あれだけさびてしまっていたら、ボロボロと崩れてしまってもおかしくないと思いますが、そうならないように、必死で守ってきたのでしょうね。

この章では、他にも国宝が8種、重要文化財が1種展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*12からダウンロードできます。ここでは、国宝のみご紹介します。

 

・禽獣葡萄鏡 1面 大山祇神社所蔵 中国・唐(7世紀)

・海獣葡萄鏡 1面 香取神宮所蔵 中国・唐(7世紀)

・八幡三神坐像 3軀 薬師寺所蔵 平安時代(9世紀)

・本宮御料古神宝類 黒漆平文根古志形鏡台 1基 春日大社所蔵 平安時代(12世紀)

・金地螺鈿毛抜形太刀 1口 春日大社所蔵 平安時代(12世紀)

・春日権現験記絵 巻第十八 1巻(20巻のうち) 皇居三の丸尚蔵館収蔵 鎌倉時代(14世紀)

・玄奘三蔵絵 巻第六 1巻(12巻のうち) 藤田美術館所蔵 鎌倉時代(14世紀)

・唐鞍 1具 手向山八幡宮 鎌倉時代(13世紀)

 

金地螺鈿毛抜形太刀の面白いところは、螺鈿で猫を描いているところです。なかなかリアルな猫で、スズメを捕っています。

第6章 写経の美と名僧の墨蹟

第6章の見所を、公式ホームページ*13の引用にてお伝えいたします。

仏の教えを伝える経典は、書写することに加え、それ自体を美しく飾ることでも功徳があるとされてきました。わが国においては、経文を写す紙に煌びやかな装飾を施した写経が平安時代に隆盛し、類い希な作品の数々が生み出されています。本章では日本を代表する古写経とともに、高僧たちの墨蹟にみる書の美の世界をご紹介します。

この章では、多くの経典が紹介されています。それぞれ、金字・銀字にしたり、経文の一字ごとに金・銀・橙・青・緑の蓮台を描いていたり。一生に一度作れるか作れないかの経典でしょうから、それぞれできるかぎりの創意工夫を凝らして、少しでも功徳を高めようとしていたことが分かります。

「空海展」では空海直筆とされる経典なども展示されていましたが、今回の出展品には著名人直筆のものはないようです。なお、後期展示では最澄筆の尺牘(久隔帖)と空海筆の金剛般若経開題残巻が展示されるようです。ちなみに両方とも、前年の「空海展」で展示されていました。最澄は丁寧に書いてはいますが、字は決して抜群にきれいというわけではありません(私が言うな)。一方の空海は、踊るように流麗でありながら、均斉のとれた力強い文字を書いています。やはり芸術性が高いですね。

この章では、国宝が15種展示されています。展示品の一覧は、公式ホームページ*14からダウンロードできます。

 

・金剛場陀羅尼経 1巻 文化庁所蔵 飛鳥時代(天武天皇15年(686))

・金光明最勝王経(百済豊虫願経) 1巻(10巻のうち) 西大寺所蔵 奈良時代(天平宝字6年(762))

・金光明最勝王経(国分寺経) 3巻(10巻のうち) 奈良国立博物館所蔵 奈良時代(8世紀)

・法華経(浅草寺経) 2巻(10巻のうち) 浅草寺所蔵 平安時代(11~12世紀)

・法華経(久能寺経) 薬草喩品・随喜功徳品 2巻(4巻のうち) 個人所蔵 平安時代(12世紀)

・法華経序品(竹生島経) 1帖 宝厳寺所蔵 平安時代(11世紀)

・一字蓮台法華経 2巻(9巻のうち) 龍興寺 平安時代(11~12世紀)

・法華経(慈光寺経) 2巻(33巻のうち) 慈光寺所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・法華経(長谷寺経) 4巻(34巻のうち) 長谷寺所蔵 鎌倉時代(13世紀)

・金銀字一切経(中尊寺経) 大般涅槃経 巻第四 1巻(4296巻のうち) 金剛峯寺所蔵 平安時代(12世紀)

・中尊寺一切経箱 1合 中尊寺大長寿院所蔵 平安時代(12世紀)

・金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第六幀 1幀(10幀のうち) 中尊寺大長寿院所蔵 平安時代(12世紀)

・智証大師関係文書典籍 伝灯大法師位位記(綾本)・福州温州台州求法目録・請台州公験牒案(円珍加筆)・文書目録(円珍筆)・議定文(円珍筆) 5巻 園城寺所蔵 中国・唐および平安時代(9世紀)

・禅院額字 前後 張即之筆 1幅 東福寺所蔵 中国・南宋(13世紀)

・山水図(水色巒光図) 1幅 奈良国立博物館所蔵 室町時代(文安2年(1445))

 

この展覧会は西国三十三所関連の出展品が多いですが、この章は出展品が少ないにも関わらず、3か寺もの関連出展品があります。西国三十三所第八番札所長谷寺、第十四番札所園城寺三井寺、第三十番札所宝厳寺(竹生島)ですね。

第7章 未来への祈り

第7章の見所を、公式ホームページ*15の引用にてお伝えいたします。

釈迦の入滅から56億7000万年後、弥勒菩薩がこの世に現われ、生きとし生けるものを救うと伝えられています。われわれが目指す光に満ちた世界のため、先人たちは写経の埋納などを通じ、未来に祈りを伝えていくことを願いました。本章では中宮寺の菩薩半跏像を中心に、文化の灯を次の時代につなぐ思いを込めた展示を行います。

ここの出展品は全体で最も少ないです。前期・後期あわせて6種しかありません。しかも、目玉とも言うべきものは後期展示になっています。何といってもここの目玉はこれも教科書で見た!の菩薩半跏像ですね。

 

・菩薩半跏像(伝如意輪観音) 1軀 中宮寺所蔵 飛鳥時代(7世紀)

※菩薩半跏像(出典:Wikipedia

 

これも一つの展覧会の目玉になるくらいの逸品です。特別展「超 国宝」の図録の表紙は百済観音、裏表紙はこの菩薩半跏像になっています。仏像としては今回のツートップということですよね。残念ながら後期展示なので、図録で我慢するしかありません。

この章では、他にも国宝が5種展示されていますが、前期が2種、後期が3種です。展示品の一覧は、公式ホームページ*16からダウンロードできます。ここでは、私が拝見したもののみ、ご紹介します。

 

・倶利伽羅龍蒔絵経箱 1合 當麻寺奥院所蔵 平安時代(12世紀)

・鞍馬寺経塚出土品 宝塔形経筒・宝幢形経筒・金銅三尊像 3件 鞍馬寺所蔵 平安時代(10~12世紀)

 

ここでもう一つ気になるものが。残念ながらこれも後期展示なので私は見ることができませんでしたが、藤原道長経筒です。これ、2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」に出てきてましたよね。柄本佑さん演じる藤原道長が、吉野に参詣していました。その時に奉納したのが、自ら書写した経典を入れたこの経筒ということですよね。いやあ、素晴らしいです。歴史のロマンを感じますね。見たかったなあ~。

というわけで、今回は5月20日(火)以降、展示が変更となります。前期・後期、それぞれ特色あるものが展示されますので、ぜひみなさんもご覧ください。

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」データ

会期  :2025年4月19日(土)~6月15日(日)

開館時間:9:30~17:00(最終入館は16:30まで)

観覧料 :大人 2,200円 高校・大学生 1,500円

場所  :奈良国立博物館

     〒630-8213 奈良市登大路町50番地

電話番号:050-5542-8600

名品展「特別公開 金峯山寺仁王門 金剛力士立像 ―奈良・金峯山寺所蔵―」について

今年もなら仏像館に展示されています。金峯山寺仁王門の金剛力士像ですね。ちょうど藤原道長が吉野に行ったという話をしていましたので、今回もご紹介しておきましょう。特別展のチケットがあれば、無料で拝観することができます。

※金剛力士像(消しゴムマジック使用後)

消しゴムマジックを使用したので、左の仁王像の右足が消えてしまっています。まあ、人がたくさん映っていましたので、仕方ないでしょう。令和10年ぐらいまで展示されているようですので、みなさまもぜひ一度はご覧ください。

最後に

いやあ、これだけ一気に国宝を見たのは初めてですね。西国三十三所で第九番札所興福寺参拝した時に多くの国宝を見ましたが、その時の記録をあっさりと、しかも大幅に更新しました。すごい展覧会です。しかし逆に、一つひとつの出展品の印象は薄まってしまったように思います。何というか、うれしいジレンマでしょうか。

これほどの展覧会は、おそらく一生に一度あるかないかだと思います。行かないときっと後悔すると思います。ぜひ、みなさまも奈良に足をお運びください。

*1:奈良市役所ホームページ「環境政策『【5/6まで】パークアンドライドサイクルライドを19時まで延長します!!奈良の観光を楽しみましょう!!』」2025.5.6閲覧

*2:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第1章』2025.5.6閲覧

*3:和辻哲郎『古寺巡礼』岩波書店(1979)

*4:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*5:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第2章』2025.5.6閲覧

*6:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*7:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第3章』2025.5.6閲覧

*8:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*9:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第4章』2025.5.6閲覧

*10:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*11:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第5章』2025.5.6閲覧

*12:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*13:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第6章』2025.5.6閲覧

*14:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧

*15:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ「見どころ『第7章』」2025.5.6閲覧

*16:特別展「超 国宝―祈りのかがやき」ホームページ2025.5.6閲覧