西国お遍路“行雲流水”

西国三十三所や四国八十八ヶ所を雲のごとく水のごとく巡礼した記録

西国三十三所 第二十九番札所 松尾寺 ~徒歩巡礼の聖地 札所唯一の馬頭観音を祀る青葉山~

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松尾寺本堂

西国三十三所の第二十九番札所は、青葉山あおばさん松尾寺まつのおでらです。若狭富士とも称される美しい青葉山の中腹に位置しており、道路が開通するまでは、九十九折の山道を歩いていく難所の一つでした。

松尾寺の巡礼情報

松尾寺ご本尊は、西国三十三所では唯一の馬頭観音さまです。優しいご表情をされた像が多い観音さまですが、馬頭観音さまは憤怒相です。これは、悪いものを追い払うためであるとされます。先代のご住職松尾心空師は、「アリの会」という徒歩巡礼会を組織され、西国三十三所の徒歩巡礼による歩行禅を勧奨しておられました。現在「アリの会」自体は解散してしまいましたが、相変わらず徒歩巡礼者にとってはこの松尾寺は聖地と言えるようです。*1

松尾寺の縁起

松尾寺の成立縁起は、松尾寺のホームページに詳しく記載されています。

www.matsunoodera.com(2021.6.30閲覧)

それによりますと、松尾寺の歴史は、飛鳥時代の慶雲年間(704~708年)に、唐僧の威光上人が青葉山の二つの峰を望んだところ、中国の霊山である馬耳山を思い出され、山に登られたことから始まったとされます。果たして山中で松の大樹の下に馬頭観音を感得し、草庵を結ばれたのは和銅元(708)年のことでした。この年をもって松尾寺の開山とされます。

この威光上人という人物ですが、実はよく分からない人物です。京都市下京区に若一神社という神社がありますが、こちらの開創もから来た威光上人となっています。

京都府神社庁のホームぺージ*2によると、からやってきた威光上人は天王寺に住んでいましたが、熊野詣をした際に人々を救おうと思い立ち、熊野権現のご分霊である若一王子のご神体を笈に背負ってこの地までやって来たところ、神さまのお告げを受けてここに安置した、ということです。

いずれもの僧である威光上人ということになっていて、熊野詣と西国三十三所ということで話は通じるのですが、年代が決定的に異なります。若一神社のご由緒では、威光上人は光仁天皇の宝亀3(772)年に若一神社を開いたことになっているのです。

まあこういったことは、西国三十三所内でも二十五番の播州清水寺と二十六番の一乗寺の開山である、法道仙人の縁起のようなケースもありますので、どちらが正しい、という類のものではありません。伝承というものは、どこかで誰かが転記ミスをしたり、聞き間違いをしたりすることがありますので、矛盾する内容が伝わっていることがあるわけです。

松尾寺の見所

松尾寺の見所をご紹介します。

仁王門

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※仁王門

江戸時代中期の明和4(1767)年に建立されました。京都府の指定文化財になっています。現在、約9,200億円をかけての修復工事中で、2021年末に完成予定です。

宝物殿

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※宝物殿

国宝の絵画普賢延命菩薩像をはじめ、5点の国指定の重要文化財や、3点の京都府の指定文化財などが所蔵されています。詳しくは、松尾寺のホームページ*3をご覧ください。拝観に際しては、春と秋の展観開催期に予約が必要です。入館料800円。

鐘楼

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※鐘楼

袴腰の鐘楼です。

本堂

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※本堂

江戸時代中期の享保15(1730)年に建立されました。京都府の指定文化財になっています。2022年より改修工事を開始する予定となっています。

 大師堂

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※大師堂

弘法大師がお祀りされているお堂です。扁額には「心霊閣」と書かれています。

経蔵

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※経蔵

正確な建立年代は筆者には分かりませんが、本堂仁王門と同じく京都府の指定文化財となっていることから、同時期の建立と思われます。なお、Googleマップでは上の建物の写真を地蔵堂として掲載していますが、建物の構造上、経蔵が正しいと思われます。境内案内図でも、位置的に経蔵が正しいことが分かります。

納骨堂

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※納骨堂

境内案内図では納骨堂となっています。Googleマップには地蔵堂という名称がありますが、供養のために納骨をするので、お地蔵さまをお祀りしていると思われます。

仏舞ほとけまい

仏さまのお面を被った六人の舞手が、篳篥ひちりきや笛などの雅楽の音色にあわせて舞うもので、舞楽の一種と考えられているそうです。この地域では約600年前から始まったと伝えられており、現在の仏面には享保10(1725)年の銘があるものもある、とのことです。六人はそれぞれ、釈迦如来二尊、大日如来二尊、阿弥陀如来二尊に扮しており、両手に撥を持つのが釈迦如来、振鼓と撥を持つのが大日如来、何も持たないのが阿弥陀如来である、とされるそうです。国指定の重要無形民俗文化財に指定されています。例年、お釈迦さまの誕生日とされる5月8日(※誕生日は4月8日の説もあり、各お寺で行事予定等は異なります)に実施されます。

松尾寺のご詠歌

ご詠歌とは、花山法皇が各札所で詠まれた歌と伝えられています。

そのかみは いくよへぬらん たよりをば

 ちとせもここに まつのおのてら

(往昔は 幾世経ぬらん 便りをば

   千歳もここに 松の尾の寺)

漢字表記、歌の解釈は紀三井寺前貫主前田孝道*4によります。

「往昔そのかみとは、昔むかしのその昔というふうに解されます。「幾世経ぬらん」とは、どれほどの時が流れたことでしょうかと受けとれます。

「便りをば……」とは、悩み苦しみの多い私たち衆生が、仏即ち観音さまの大慈大悲のお救いを頼ることと見ることができます。またこの「便り」は、仏の教えそのものと受け止めることもできようかと思います。

「千歳もここに」は、千年もの長い間ということですが、「松樹千年翠まつはせんねんのみどり」とか「老松千年寿まつはせんねんのことぶき」等の言葉もあって、千歳の千は松に掛かる掛け言葉です。

「松の尾の寺」では、もちろん当松尾寺のことを指しますが、「待つ」という意味にも掛かっています。

弥勒菩薩という仏さまは、お釈迦さまの亡くなられた後、56億7千万年後に現れて、人々をお救いくださる、とされています。松尾寺でお祀りされているのは観音さまですから、弥勒菩薩さまとの関連は薄いと思いますが、昔は松尾寺に参拝して、極楽浄土へ生まれ変われる日を待っていた人が多かったことと思います。

松尾寺へのアクセス

松尾寺のホームページに詳しいアクセス情報が掲載されています。

www.matsunoodera.com(2021.6.30閲覧)

公共交通機関

JR「松尾寺駅」から京都交通バス「高浜」行に乗車、「松尾寺口」下車徒歩約40分(「松尾寺駅」から約41分)。

※バスは1日5本なので、事前に時間を確認すること(2021年6月30日現在)

お車

舞鶴若狭自動車道「舞鶴東IC」から北東に約15分。

駐車場あり。約80台。500円。

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※第1駐車場入口

松尾寺データ

ご本尊 :馬頭観世音菩薩

宗派  :真言宗醍醐派

霊場  :西国三十三所 第二十九番札所

     神仏霊場巡拝の道 第132番

所在地 :〒625-0010 京都府舞鶴市字松尾532

電話番号:0773-62-2900

拝観時間:8:00~17:00

拝観料 :無料

    (宝物殿の入館には春・秋の展観期間中に事前予約が必要。入館料800円)       

URL   :http://www.matsunoodera.com/index.html

 

第二十八番 成相寺 ◁ 第二十九番 松尾寺 ▷ 第三十番 宝厳寺

南坊の巡礼記「松尾寺」(2021.4.30) 

11時前に成相寺を出発し、国道178号線を進みます。 京都丹後鉄道の「天橋立駅」でスタンプラリーのスタンプをいただきました。ここは駅に無料の駐車場があって助かりました。改札でさくっとスタンプをいただきます。

国道178号線は、そこからしばらくすると東向きから南向きに変わります。「八田」という交差点で左折すると番号が国道175号線に変わりました。ここから舞鶴市内に入ります。せっかくなので、17~18年くらい前に行ったことがある道の駅舞鶴港とれとれセンターで海鮮丼でも食べようと思いました。

ところが何と! 道の駅は休業中です! 緊急事態宣言が出ていましたので、仕方がありませんか……。しかし、平日はやっていた方が、他のお店の混雑も分散されていいと思いますけどね。何でもかんでも休みにしても、やっているところに人が集中するだけですから、考えものです。私はパチンコはやりませんが、コロナ禍の初期のころは、他県までわざわざパチンコをしに行っている人がいると、ニュースでやっていましたよね。

というわけで仕方なく車を東へ走らせます。車を停めやすそうなところ、と思ってしばらく進むと、第一旭西舞鶴店がありました! もはや迷うことはありません。いやあ、第一旭は京都のラーメンチェーンで、昔白川通りにお店があってね……と思ったら、知らないうちに第一旭は9グループに分かれていたそうです! 衝撃的!

何でも、私が入ったお店は総本家広瀬家特製ラーメン第一旭西舞鶴店が正しい店名だそうで……。うーん、歳月というものは残酷なものですね。

確かに、メニュー変わったのかな?という印象を持ったのは事実です。ラーメンとチャーハンのセットで1,122円ですからそこそこのお値段ですよね。味は文句なくおいしいです、ハイ。

第一旭を出て最初の大きな交差点「大手」から東は国道27号線となります。そこから20分ほどで、「松尾寺口」という分岐点に着きます。

松尾寺口」から左の小道へ入っていくのですが、いきなり離合不可能な細い道になります。しかもここはバックしようにも、国道にバックして出ていくことはできませんので、かなりの難所だと思われます。日ごろの行いが問われるポイントだと言えそうです。私の場合は、対向車が来ませんでした。

ただ、その後はいくぶん道も太くなり、一時的には2車線になるところもあります。一番細いのが国道入ってすぐぐらいのところかもしれません。山道はカーブをうまく使えば離合できる感じですし、そんなに印象には残っていません。四国の山道に比べれば、大したことなかったのでしょう。

しばらく走ると、左側に石段が出てきました。徒歩巡礼の方はここを登っていきます。私はもう少し車を走らせました。するとすぐに、駐車場に到着です。

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※第1駐車場入口

左下の方に降りれば、第2駐車場もあるようです。すでに4~5台の車が停まっていました。毛虫を警戒しながら、木の下に停めます。木陰に停めると停めないで、車内の温度上昇が大きく変わりますので。境内案内図は、この駐車場の案内板についています。

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※境内案内図

トリミングして拡大していますので、字が読みにくいところはご容赦ください。この第1駐車場のすぐ右上が仁王門です。

ただ、私は一度車道をぐるっと回って下まで降り、石段の一番下から上に登っていくことにしました。

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※青葉山周辺案内図

石段の登り口のところにこのような案内図がありました。図では近く見えますが、「松尾寺駅」から松尾寺までは徒歩50分くらいかかるらしいです。

石段はこんな感じです。

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※仁王門までの石段

登り甲斐がありますが、5分程度でしょうか。あっけないものです。

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※仁王門

幕に覆われた仁王門が見えてきました。実は先におトイレをお借りしていたので、修復中ということは知っていました。しかし、駅やバス停から歩いてきて、やっと見えてきた仁王門がこんな感じだったらさぞがっかりすることでしょう。ちなみにここのおトイレも五番の葛井寺と同じように烏枢瑟摩明王がお祀りされていました。

仁王門の修復状況を、ネットの隙間から撮影してみました。

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※仁王門礎石

石段から登ってくると下から見上げる形になるので、結構大きく見えますが、礎石だけで見ると意外と小さく感じました。礎石で言えば、興福寺南大門の礎石はかなり大きかったので、門も相当大きかったのでしょう。

門の周りは板で廊下のようになっており、そこを通って境内の方へ入ります。すぐに、右手に宝物殿が現れます。

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※宝物殿

ここも行きたかったのですが、事前予約制であるため、時間指定が難しいと思い、予約できなかったのですよね。初めて行くところでは、どれぐらいの時間がかかるか、という予測が難しいですよね。

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※境内下から見る本堂

ここから上がると、本堂のレベルに到着です。灯籠?の左下に古い道標があります。手が右を差していて「竹生島道」と書かれています。

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※灯籠?と道標

本堂はかなり変わった造りです。二層式とでも言うのでしょうか? 銅葺きの屋根は四番施福寺も同じでしたが、このような形式は見たことがありません。遠くから見たらピラミッドのように見えるかもしれません。

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※本堂 実はこのページに掲載されている本堂の写真は3枚とも別の写真

とりあえず本堂納経を済ませます。本堂は、中に入ることができます。立派な馬頭観音さまがいらっしゃいます。拝見することができるのは、お前立ちの方ですね。

本堂からは横に渡り廊下が伸びています。

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※渡り廊下と大師堂

渡り廊下を通って大師堂の方に向かいました。

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※渡り廊下から見た大師堂

こうやって見ると、傷みがだいぶ激しいですね。大師堂、大師堂と書いていますが、実は参拝時は何の建物か分かっていませんでした。

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※渡り廊下

渡り廊下の下に何か置いてあります。

ここは馬頭観音さまがお祀りされているだけあって、馬関係のお仕事に就いておられる方の参拝も多いそうです。それで、境内に馬の銅像もありました。これも施福寺以来でしょうか。

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※馬の銅像

境内には、他にも経蔵六所権現などがありました。

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※六所権現

しかし、説明板等があまりないので、お伝えできる情報が少なくて申し訳ありません。

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※経蔵横の味わい深いお地蔵さま

ということで、納経所を探すことにしました。確か、仁王門に入るときに右が本堂、左が納経所と書かれていたはずです。いったん仁王門まで戻ります。

仁王門のところで、西国霊場徒歩巡礼満願記念碑を発見しました。ここの先代ご住職は徒歩巡礼を勧奨しておられます。『西国三十三所古道徒歩巡礼地図』*5という本も発行しておられるので、私はその本を買いたいな、と思っていました。

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※西国霊場徒歩巡礼満願記念碑

仁王門の横から出て右奥の方へと進みます。すると、赤い屋根のオシャレな建物が見えてきました。ここが納経所のようです。

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※納経所

戸が閉まっていましたが、勝手に開けて中に入って大丈夫です。

納経所には先客がいらっしゃいましたので、しばらく待ってからご宝印をいただきます。納経所のおじさまといろいろお話しながら『西国三十三所古道徒歩巡礼地図』が欲しい旨をお伝えしました。すると私が慈悲の道を読んで予習をしていたこともあり、少しお話が盛り上がってしまい、おじさまが地図を忘れてしまうというトラブルも。

地図は奥の方にあったようで、若いお坊さま(※当代のご住職か?)に聞かれて取ってきてくださいました。ちょっと正確な値段を忘れてしまいました。2,000円代だったと思います。

と、ここで納経所の隅っこにスタンプが置いてあることに気がつきます。そう、松尾寺は駅からかなり離れていることもあり、JR「東舞鶴駅」とこちらの納経所の両方にスタンプがあるのです。実は最寄りの「松尾寺駅」にはないのですが、おそらくバスが「東舞鶴駅」から発着しているからだと思われます(※「松尾寺駅」も経由します)

しかし、よりによって今回は本を駐車場に置いてきてしまっていました。おじさまに本を取ってきてからスタンプを押させてください、とお断りしてから車に戻ります。おじさまは「皆が押すのでへたってますよ」と教えてくださいました。そう、スタンプラリーに参加していない方も適当に押していかれるわけで、かなりスタンプがへたってきていたようです。

実際、押させていただいたスタンプはかなりへたっていて、全32箇所のスタンプ中、一番判読不可能なものでした(※華厳寺はサービススタンプとして事前に印刷してある)

ということで、今回の巡礼も無事に終了です。13時30分にはお寺を出発し、16時ごろには帰宅できました。京都縦貫自動車道、恐るべしです。

しかしこうやって巡礼に簡単に行けるのはありがたいですが、逆に言うとそれだけ有難みも薄れているような気がします。宝物殿も見てみたいですし、次回はぜひ麓から歩いて参拝したいと思いました。

というわけで皆さんも! Let's start the Pilgrimage West!

 

南坊の巡礼記「成相寺」(2021.4.30) ◁ 南坊の巡礼記「松尾寺」(2021.4.30)

南坊の巡礼記「松尾寺」(2021.4.30) ▷ 南坊の巡礼記「宝厳寺」(2021.5.3)

 

最終更新:2021.7.2

*1:西国巡礼慈悲の道パートⅤ「徒歩巡礼による歩行禅」2021.6.30閲覧

*2:京都府神社庁「若一神社」2021.6.30閲覧

*3:松尾寺ホームページ「宝物殿」2021.6.30閲覧

*4:前田孝道『御詠歌とともに歩む 西国巡礼のすすめ』朱鷺書房(1997)

*5:編集アリの会 発行松尾心空『西国三十三所古道徒歩巡礼地図』西国第二十九番松尾寺(2000)